魔術師団長に、娶られました。
帰路
結婚式の場におけるアーロンの姿があまりにも美しくて、誓いのキスのときもシェーラはぽーっと見とれてしまっていたのだが、アーロンにはそんな腑抜けたところは徹頭徹尾一切なかった。
砂糖菓子のような真っ白なドレスに身を包んだ花嫁をスマートに抱き寄せると、参列客が息を止めて見守るほどしっかりとキスをして、囁いてきた。世界一可愛いです、と。
シェーラはといえば、恥ずかしさと、逃げ出したい気持ちと、それ以上にアーロンに対しての「好き」の気持ちが大きくなりすぎたせいで、もはや腰砕けになりかけていたが、式の最中はかろうじて副騎士団長の面目を守るべく踏みとどまった。
参列客に笑顔を向けて、自分の足でしっかりと歩き、花びらのシャワーを浴びて馬車に乗り込んだ。
すぐに馬車の窓から顔を見せると、周囲に愛想を振りまくのも忘れない。
道が新居となる屋敷への一本道にさしかかる頃にはさすがに車外に見物人の姿もなくなったことから、馬車の中でひといきつくことができた。
「シェーラさん、おつかれさまです」
背もたれに背を預けたシェーラに対し、アーロンがそっと肩を寄せ、手袋を外しながら微笑んでくる。
「アーロン様も、お疲れ様です。今日は素敵な一日を、ありがとうございました」
「まだ終わってませんよ。というか、これからですよ?」
にこにこと笑いながら、アーロンはシェーラの肩に腕を回してきた。すぐに唇を奪われて、シェーラは幸福感に浸ったまま目を閉ざした。
(キス、気持ちいい……)
何度か優しく唇を合わせてから、唇をわずかに開くと、そこからアーロンの舌が入ってくる。熱をもった肉厚な舌がシェーラの口の中を犯し、濡れた舌と舌の絡む淫靡さに、シェーラは細く声を漏らした。
「あっ……んっ……」
「声、かわいい。肌に触れてもいい?」
くすっと笑いながらアーロンが聞いていて、シェーラは目を合わせることができずにアーロンの肩に顔をうずめて「大丈夫です」とかすれ声で答える。
するり、と指がむきだしの肩を撫でた。
「はっ……」
息を呑む。
ドレスの意匠としては上品なもので、ひとの目に触れてもいやらしい作りではなかったはずなのに、アーロンに触れられた瞬間「素肌をさらしている」と自覚してしまって、ぞくりと体が震えた。
アーロンは、シェーラの反応を楽しむように滑らかな肩やうなじを軽く撫でてから、布地の上からそうっと胸に触れてきた。
きつくコルセットを締めているので、指を直に感じるわけではないが、他人が決して触らない場所を大胆に触られているという事実が、羞恥心をたまらなく煽ってくる。
「恥ずかしい、です」
「恥ずかしがってるシェーラさん、すごくかわいい。もっと恥ずかしいことしよう?」
「え、もっと? んっ」
口を口でふさがれて、背中を支えられたまま椅子の座面に押し倒される。フリルの重なったスカートの裾が乱れ、滑り込んできたアーロンの手がガーターベルトの上から太ももを掴んだ。
「んんっ」
声を上げようとすれば、すかさず舌を口の中までねじこまれて、粘膜をこすり合わせるように頬の裏側まで舐められる。
「あっ、アーロン様っ……」
目を瞑り、喉をそらしてシェーラが名を叫ぶと、アーロンが体重をかけてのしかかってきた。
「シェーラさん、キスで気持ちよくなってて、本当にかわいい」
「あっ、あっ、あっ、ああんっ」
シェーラは悶えながら喘ぎ声を上げ、思わずアーロンの腕にすがりつく。
「こわい、やめて……。だめ、こわいっ」
「……ごめんなさい」
ふー、と大きく息を吐きだして、アーロンは上半身を起こした。乱れたシェーラのスカートを整えながら、涙目になって肩で息をしているシェーラを見下ろす。
「怖がらせてしまうのは、いけませんね。今晩、このあと自分が何をしてしまうか、考えるだけでおそろしい……」
俺の手を縛っていただくとか、寝室を分けるとか……とアーロンが深刻な顔をして検討を始めてしまったので、シェーラはがばっと身を起こした。
「いけません! いきなり別々の部屋というのは、政略結婚で一番いけないことだと思います!」
「そうは言っても、同じ部屋で一晩過ごす自信はないです。あなたを怖がらせてまで」
「怖いのは、アーロン様ではありません! 気持ちがよくて、自我が保てないといいいますか……自分がこわい……? なので、アーロン様がベッドで遠慮なさる必要はないです!」
「え?」
きょとん、と目を瞬かれて、シェーラもまた「ん?」と首を傾げた。
徐々に、自分が何を口走ったかが自覚されて、かああっと顔を赤らめる。一方のアーロンはといえば「あ~……転移魔法でいますぐベッドに行きたい。これ以上一秒も待ちたくない」と物騒なことを呟きながら、腕を組んで背もたれに寄り掛かった。歯を食いしばっているような険しい顔で、目を閉ざし、黙り込む。シェーラもまた、もぞもぞとスカートを直しながら、膝の上で両方の拳を握りしめて、うつむいてしまった。
それからほどなくして、馬車は屋敷へとたどり着いた。
寝室で再会する旨を互いに確認してから、支度のためにそれぞれ別の部屋へと向かうことになる。
シェーラは顔を赤らめつつ「急ぎます」と言ったが、アーロンは余裕のある笑みを浮かべて「大丈夫。納得いくまで準備してください」と送り出してくれた。
砂糖菓子のような真っ白なドレスに身を包んだ花嫁をスマートに抱き寄せると、参列客が息を止めて見守るほどしっかりとキスをして、囁いてきた。世界一可愛いです、と。
シェーラはといえば、恥ずかしさと、逃げ出したい気持ちと、それ以上にアーロンに対しての「好き」の気持ちが大きくなりすぎたせいで、もはや腰砕けになりかけていたが、式の最中はかろうじて副騎士団長の面目を守るべく踏みとどまった。
参列客に笑顔を向けて、自分の足でしっかりと歩き、花びらのシャワーを浴びて馬車に乗り込んだ。
すぐに馬車の窓から顔を見せると、周囲に愛想を振りまくのも忘れない。
道が新居となる屋敷への一本道にさしかかる頃にはさすがに車外に見物人の姿もなくなったことから、馬車の中でひといきつくことができた。
「シェーラさん、おつかれさまです」
背もたれに背を預けたシェーラに対し、アーロンがそっと肩を寄せ、手袋を外しながら微笑んでくる。
「アーロン様も、お疲れ様です。今日は素敵な一日を、ありがとうございました」
「まだ終わってませんよ。というか、これからですよ?」
にこにこと笑いながら、アーロンはシェーラの肩に腕を回してきた。すぐに唇を奪われて、シェーラは幸福感に浸ったまま目を閉ざした。
(キス、気持ちいい……)
何度か優しく唇を合わせてから、唇をわずかに開くと、そこからアーロンの舌が入ってくる。熱をもった肉厚な舌がシェーラの口の中を犯し、濡れた舌と舌の絡む淫靡さに、シェーラは細く声を漏らした。
「あっ……んっ……」
「声、かわいい。肌に触れてもいい?」
くすっと笑いながらアーロンが聞いていて、シェーラは目を合わせることができずにアーロンの肩に顔をうずめて「大丈夫です」とかすれ声で答える。
するり、と指がむきだしの肩を撫でた。
「はっ……」
息を呑む。
ドレスの意匠としては上品なもので、ひとの目に触れてもいやらしい作りではなかったはずなのに、アーロンに触れられた瞬間「素肌をさらしている」と自覚してしまって、ぞくりと体が震えた。
アーロンは、シェーラの反応を楽しむように滑らかな肩やうなじを軽く撫でてから、布地の上からそうっと胸に触れてきた。
きつくコルセットを締めているので、指を直に感じるわけではないが、他人が決して触らない場所を大胆に触られているという事実が、羞恥心をたまらなく煽ってくる。
「恥ずかしい、です」
「恥ずかしがってるシェーラさん、すごくかわいい。もっと恥ずかしいことしよう?」
「え、もっと? んっ」
口を口でふさがれて、背中を支えられたまま椅子の座面に押し倒される。フリルの重なったスカートの裾が乱れ、滑り込んできたアーロンの手がガーターベルトの上から太ももを掴んだ。
「んんっ」
声を上げようとすれば、すかさず舌を口の中までねじこまれて、粘膜をこすり合わせるように頬の裏側まで舐められる。
「あっ、アーロン様っ……」
目を瞑り、喉をそらしてシェーラが名を叫ぶと、アーロンが体重をかけてのしかかってきた。
「シェーラさん、キスで気持ちよくなってて、本当にかわいい」
「あっ、あっ、あっ、ああんっ」
シェーラは悶えながら喘ぎ声を上げ、思わずアーロンの腕にすがりつく。
「こわい、やめて……。だめ、こわいっ」
「……ごめんなさい」
ふー、と大きく息を吐きだして、アーロンは上半身を起こした。乱れたシェーラのスカートを整えながら、涙目になって肩で息をしているシェーラを見下ろす。
「怖がらせてしまうのは、いけませんね。今晩、このあと自分が何をしてしまうか、考えるだけでおそろしい……」
俺の手を縛っていただくとか、寝室を分けるとか……とアーロンが深刻な顔をして検討を始めてしまったので、シェーラはがばっと身を起こした。
「いけません! いきなり別々の部屋というのは、政略結婚で一番いけないことだと思います!」
「そうは言っても、同じ部屋で一晩過ごす自信はないです。あなたを怖がらせてまで」
「怖いのは、アーロン様ではありません! 気持ちがよくて、自我が保てないといいいますか……自分がこわい……? なので、アーロン様がベッドで遠慮なさる必要はないです!」
「え?」
きょとん、と目を瞬かれて、シェーラもまた「ん?」と首を傾げた。
徐々に、自分が何を口走ったかが自覚されて、かああっと顔を赤らめる。一方のアーロンはといえば「あ~……転移魔法でいますぐベッドに行きたい。これ以上一秒も待ちたくない」と物騒なことを呟きながら、腕を組んで背もたれに寄り掛かった。歯を食いしばっているような険しい顔で、目を閉ざし、黙り込む。シェーラもまた、もぞもぞとスカートを直しながら、膝の上で両方の拳を握りしめて、うつむいてしまった。
それからほどなくして、馬車は屋敷へとたどり着いた。
寝室で再会する旨を互いに確認してから、支度のためにそれぞれ別の部屋へと向かうことになる。
シェーラは顔を赤らめつつ「急ぎます」と言ったが、アーロンは余裕のある笑みを浮かべて「大丈夫。納得いくまで準備してください」と送り出してくれた。