結ばれなかった赤い糸

「花嫁さん……」

前はポツリと呟く。結婚という言葉の意味をまだ深くは知らない年頃だ。しかし、目の前で笑う花火が今まで見たどんなものよりも美しいということだけはわかる。

「花火ちゃん。そんなに花嫁になりたいなら、うちの前のお嫁さんになる？」

前の母親が言ったその一言が、二人の運命を大きく変えた。前の父親と花火の父親が賛成し、前は「花火ちゃんとずっと一緒にいられるよ」と言われたことに胸が弾んでいった。

（花火ちゃんとずっと一緒……）

胸が病気ではないかと思うほど、早く鼓動していく。それが「初恋」だと気付いたのは少し先のことだったが、前はこの瞬間が幸せで堪らなかった。

「花火ちゃん、僕のお嫁さんになってくれる？」

「うん！結婚式しよ！」

花火が前の腕に自身の腕を絡ませる。楽しそうに二人は笑っていた。その様子を前の父親が撮影し、未来の約束をした瞬間を切り取ったその写真は、前にとって宝物になったのだ。