結ばれなかった赤い糸

「僕たち、結婚するんだよね？」

「ママたちが「前くんと結婚するんだよ」ってずっと言ってるからね」

そう言った花火の髪が風に揺れる。腰まである彼女の髪は手入れが施されており、艶やかである。その髪に触れたくなり、前は無意識に手を伸ばそうとして、慌てて手を引っ込めた。

高校生になっても、大学生になっても、花火の態度はどこか距離を感じさせるものだった。しかし二人の結婚の話は進んでおり、前は距離があることに悲しみを感じつつも、花火との結婚が近付いていることに喜びでいっぱいになっていた。

（一緒にいることが当たり前になったら、きっと何か変わるよね。子どももできるかもしれないし）

幸せな家庭を築けたら、そんな甘い夢を前は描き続けた。大学を卒業してからは両親から家をプレゼントしてもらい、そこで花火と同棲を始めた。

本当は大学を卒業した後、すぐに結婚をするつもりだったのだが、花火が「働きたい」と言い、まだ婚約者という関係のままだった。