結ばれなかった赤い糸
その時、玄関のドアが開く音がした。慌てて前は物陰に隠れる。出てきた人物を確認する。そこにいたのは、腰ほどまであるロングヘアーが特徴的な花火ではなく、ショートカットの女性だった。キャラクターが描かれたTシャツとショートパンツを履いており、活発で明るい女性という印象を前は抱いた。

「花火、置いてくなよ」

苦笑しながら男性が出てくる。日に焼けた肌に筋肉質な男性だ。その男性が言った名前に前は驚いた。

(あの人が花火!?)

信じられなかった。前の隣にいた頃の花火は、いつもスカートかワンピースしか着ていなかった。お嬢様らしい格好をしろと言われている、と花火はため息混じりに話していたことを前は思い出した。そして髪も伸ばしなさいと両親に言われているようだった。

(髪も服装も、何もかもが違う……。花火じゃないみたいだ)

明るく笑う花火は、きっと街中で出会っても別人だと思ってしまうだろう。前の前では人形のように作られた薄い笑みだけを浮かべていた。
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