生物と、似つかわない双子の間で。
放課後、言われた通り職員室に向かうと、入口付近の所に坂本先生は立っていた。
「岩田。こっち、来い」
そう言って連れて行かれた先は、また生徒相談室だった。
「………坂本先生、何ですか」
「何ですかじゃねぇよ」
私は手前に座り、先生は奥に座る。
「……お前、塾って…駅前の個別指導塾だったのか」
「はい」
「そして、俺の授業と比較していたのは…兄貴の授業だったってことか」
「…はい」
大きく溜息をついた。
…溜息をつきたいのは、私の方だよ。
「……先生。絢斗先生の前では、あんなに素直で物腰柔らかそうな態度なのに、どうして学校ではそんな感じなのですか」
「別に、お前には関係無い」
……本当、頭の固い人。
絢斗先生と双子だなんて、絶対嘘でしょ。
そう思うくらい、中身は全然似ていない。
「…で、岩田。兄貴とのキスは気持ち良かったか?」
「…はぁ?」
な、何それ。
坂本先生がそれを聞いてどうなると言うのか…。
「別に、坂本先生には関係ありません」
「関係ある」
先生は立ち上がり、私の隣に来た。
その行動に危険を感じ、私も立ち上がって先生から離れる。
「…逃げんな」
そう言いながら更に近付いて来た先生。
また、先生の体と壁の間に挟まれた。
しかも、今度はピッタリと挟まれており、抜け出すスペースが無い。
「岩田。兄貴と俺、どっちが気持ち良いか、試してみろよ」
「えっ」
抗議する間も無く、坂本先生にキスをされた。
激しく乱暴なキスに嫌悪感が増す。
嫌だ…。
気持ち悪い。
気持ち良さなんて1ミリも無くて、ただただ不快感でいっぱいになった。
「…ちょっと…何で、こんなことするのですか」
「……兄貴が取られた…嫉妬。…と、岩田に対して感じている…生徒以上の、感情」
「………」
「俺だって分かんねぇよ。どうするのが正解か、分かんねぇ…。…兄貴は俺のなんだ。…だけど、その兄貴の彼女にも…違う感情を抱いている。何だよ、分からない…俺は自分が分からない…」
何を言っているのだろうか。
…分からないのは、こっちだよ。
何?
坂本先生、お兄ちゃんが大好きなブラコンという認識で良いの?
あと、生徒以上の感情って…何。
大体、私。
坂本先生に好かれるようなことをした覚えが全く無い。
「……絢斗先生に、言います」
「いや…止めろ。絶対に言うな…」
「………」
「岩田!!」
そんな言葉を無視して、私は生徒相談室から出た。
「……最悪」
今日は、塾の日。
私は重い足取りで塾に向かった…。