生物と、似つかわない双子の間で。
「あ、ゆきちゃん。お疲れ様」
「………」
「…ゆきちゃん?」
…我慢していたのに。
絢斗先生の姿を見た瞬間、声が出るよりも先に涙が出た。
しかもその涙は止まる気配が無い。
「絢斗先生…今日、勉強できない…」
「何があったの?」
覗き込むように私の顔を見る先生。
その悲しそうな表情に胸が痛む。
「………」
今ここで、坂本先生のことは話せない。
私が黙り込んでいると、絢斗先生は少し何かを考えたのち深く頷いた。
「分かった。今日の時間は、クイズをしようか」
「クイズ?」
「ちょっと待ってて」
絢斗先生は足早に職員室に向かい、暫くして小さな箱を持って戻ってきた。
「見て、ゆきちゃん」
箱を開けて中身を取り出す。
中から、微生物と思われる形をした小さな木の板が沢山出てきた。
「微生物?」
「そう、微生物。僕が作った微生物コレクション」
「え、作ったの?」
「うん。木の板を微生物の形に切り抜いて、絵の具で色付けしたんだ」
「凄い…」
板を1つ手に取ってみる。
曲線も綺麗に削られていて、触り心地が良い。
「…これ、ミカヅキモ」
「そう。正解」
次の板を取ってみる。
これを作ったとは…。
…絢斗先生って、こんなにも手先が器用だなんて知らなかった。
「これは…ミジンコ」
「うん。ミジンコはミジンコなんだけど、それはオカメミジンコだよ」
「じゃあ、これは?」
「それがミジンコ」
「…違いが分からん」
先生と微生物のクイズをしながら、授業時間を潰す。
温かく優しい空気に、胸が苦しくなった。
この後、坂本先生の話をしなければならないなんて。
…もう全て…無かったことになれば良いのに…。