生物と、似つかわない双子の間で。
放課後、言われた通り職員室に向かった。
「…坂本先生。2年A組の岩田です…」
「………おう」
職員室の入口に立っていた坂本先生。
私の姿を見て、職員室の中に入って行く。
そして問題集ではなく、どこかの鍵を持って戻ってきた。
「……ちょっと、来い」
「え?」
坂本先生は無言でどこかに向かって歩く。
「……」
辿り着いた先は、生徒相談室だった。
「入れ」
「……私、坂本先生と話すことなんて、無いんですけど」
「俺がある」
無理矢理部屋に押し込まれ、椅子に座らされた。
その向かいに坂本先生も座り、睨むように私を見る。
…怖い。
何の話なのか、何をしたのか。
坂本先生と接点が無いからこそ、何も分からない。
「お前…昨日、俺の授業はいらないって言っていたよな」
「………」
や…。
やっぱり聞かれていた……!!
その話か!!!
次に飛んでくる言葉を先読みしようと、思考を巡らせる。
しかし、何も浮かんでこない!
………あ、でも。
待てよ。
正確には、いらないって言ったのは…りっちゃんの方だな…。
最悪、りっちゃんの名前を出せば…。
なんて、そんな最低なことを考えた。
「…岩田由紀乃。お前の塾の講師がどれだけ分かりやすいか知らんけれど。…そんなに、俺の授業は分かりにくいか?」
「…え?」
「分かりにくいかどうか、って聞いてんだ。答えろ」
「………」
あまりにも強い圧に、思わず押されそうになる。
力強いその目に撃ち抜かれそう。
「…分かりにくいです。全然、分からないです。何を言っているか、全く分かりません」
………。
素直に言ったのは良いが…。
怖すぎて、先生の顔を見られない。
怒っていたらどうしよう。
そう思ったが、そんな心配はすぐに消え去った。
「……そうか」
先生はそう一言呟いて黙り込む。
眉間に皺を寄せて、何かを考えているような様子だった。
「…えっと……先生、もう帰っても良いですか?」
「いや、まだだ」
勢いよく顔を上げて、再び真っ直ぐ私を見る。
また、力強い目をしていた。
「お前に、頼みがある。俺の授業で、どこを改善したら良いか教えてくれ」
「………は?」
「悔しいんだよ。どこの誰か知らん奴と比べられて、いらないって言われたのがよ」
「………」
「俺だって教師の端くれだ。教師である以上、お前ら生徒に納得させられる授業をしたい」
「………」
唐突な展開にビックリ。
何で私が?
「意味が分かりません。私である必要は無いと思います」
「他の奴の授業を知っているお前だから頼むんだ。お前以外、適役な奴なんて居ねぇよ」
「………」
いや、居ると思うけどね。
塾に通っている生徒なんてゴロゴロ居ると思うけれど。
「私なんかより…」
「うるせぇ。俺はお前に頼んでいる。それ以上も以下も無い」
「…………」
本当、自己中心的。
それが人に物を頼む態度なの?
…なんて思いつつ、承諾はする。
「…分かりました」
……坂本先生の思いは良く分かった。
けど、その前にちょっと言わせて欲しい。
「だけど、先生。坂本先生は授業を改善する前に、やるべきことがあると思います」
「…あ?」
「その教師あるまじき言葉遣い、自己中心的な態度などなど。まず、そこを治すところからだと思います」
「……」
どんなに良い授業をしても、態度が悪ければ意味が無い。
絢斗先生だって、物腰柔らかで明るくて優しいんだから。
一方、坂本先生は真逆だ。
もうその態度から損をしていると思う。
「……うるせぇな。お前に言われる筋合いは無い」
………。
だから。
それよ、その態度。
折角教えてあげたのに。
すぐそんなことを言う。
「先生、それですよ」
私は先生の返答を聞かず、生徒相談室を出た。