生物と、似つかわない双子の間で。
「絢斗先生~…」
「ゆきちゃん、元気が無いね」
「うん。もう嫌だ…」
坂本先生に呼ばれたあの日から数日後。
私は、精神的に疲労していた。
あれから坂本先生は、生物の授業があった日の放課後に私を呼ぶようになった。
そして、毎回授業の評価をさせられている。
「私、先生じゃないからさぁ。授業のどこが悪いかとかそこまで分からないよ…」
「その先生、本当に酷いね。そんなこと…他の同僚とかに頼めば良いのに」
「……あの先生のせいで、生物が嫌いになりそう。何が細菌だ、微生物だ…」
「ゆきちゃん…」
絢斗先生は机に伏せている私の頭を優しく撫でてくれた。
「ゆきちゃん。君が無理をする必要は無いと思うよ。悩んでいる様子を見るのは…僕も辛い。いつもみたいに、君には笑顔で居て欲しい」
優しい撫で方…。
先生の手…大きくて温かくて、本当に落ち着く。
「無理をしているつもりは無かったんだけど。…絢斗先生、優しいね」
「……別に、誰にでも優しいわけでは無いから」
精神的に疲労している私に、先生の優しさが身に沁みる。
「先生の手、温かい」
「ゆきちゃんなら、いつでも温かさを感じさせてあげる」
「………」
さっきから出てくる言葉。
絢斗先生はどんな表情で言っているのだろう。
単純な私の心は、その言葉1つで簡単に心拍数を上げる。
「…………先生、そんなこと言ったらダメだよ。期待しちゃう」
「……良いんじゃないかな。期待しても」
「……」
顔を上げ、絢斗先生の顔を見る。
「ゆきちゃん、授業が終わってから少し時間を頂戴」
「………」
先生は頬を少しだけ赤く染め、優しく微笑んでいた。