【連載版】田舎者にはよくわかりません~ぼんやり辺境伯令嬢は、断罪された公爵令息をお持ち帰りする~【書籍化+コミカライズ準備中】
22 初恋の終わり
テオドール様から逃げるように私は自室へ戻りました。
メイド達は、皆、夜会の手伝いに行っているようで部屋には誰もいません。
こういうときに、専属メイドがいなくて本当に良かったです。
なぜなら、今の私は涙をにじませて泣きそうになっているから。こんな姿を誰かに見られたら、心配されてしまいます。
私はにじんだ涙を指でぬぐってから、部屋の扉に内側からカギをかけました。そして、着ていたドレスを一人で脱ぎ始めます。普段から、なんでも一人でできるように練習していて良かったです。
服飾士たちも私がそうしていることを知っているので、私が着ているドレスは一人で脱げるような作りになっています。
ドレスを脱いで、髪飾りを外して、結ってもらった髪をほどいて。最後にアクセサリーを外そうとしたとき、私の手は止まりました。
テオドール様にいただいた、赤い宝石がついたネックレスとイヤリングが輝いています。また視界がにじみました。ふるえる手でなんとかアクセサリーを外します。
そのあとは、重い体を引きずるように、のそのそとナイトドレスに着替えて、私はベッドにもぐりこみました。
「……テオドール様、他に好きな人、いたんだ……」
ポツリとつぶやくと、こらえていた涙が次から次へとあふれてきてもう止められません。
テオドール様の優しい笑みや、温かな体温、安らぐ腕の中、心地好い声。それらはどうも私だけのものではなかったようです。
私より特別な誰かを、私より大切にしているテオドール様を想像すると、心が引き裂かれたように痛くて、息ができないほど苦しいです。
私は声をひそめて泣きました。
一人でどれくらいそうしていたのかわかりません。
泣きすぎて頭がボーッとしてきたころ、私の涙はようやく止まりました。
なんだか、いろんなことがありすぎてよくわかりませんが、結局のところ、テオドール様には他に好きな人がいるのに、ちょっと優しくされた私が両想いだと勘違いして痛い女になっていた、ということで合っているのでしょうか?
「……そういえば、テオドール様は私に恩返しがしたいって……。なんでもご命令くださいって……」
そう言ったテオドール様に私は、王都からバルゴア領に向かっている最中に「婚約者のふりをしてもらえませんか?」とお願いしました。
もしかして、テオドール様は私のそのお願いを命令だと思って、今までずっと恩返しをするために婚約者のふりをしてくれていたのでしょうか?
そう考えるとすべてのつじつまが合います。あの甘い言葉の数々も、アクセサリーの贈り物も、すべて婚約者のふりだったんですね。
私はあまりの恥ずかしさにベッドの上を転がりました。
「うわぁあん! 本当に私の勘違いだったぁあ! テオドール様、バルゴア領では婚約者のふりをしなくて良かったんですよ! 私、バルゴア領についたらお友達だって、ちゃんと皆に紹介したじゃないですかぁああ!」
そう叫びながらクッションをバシバシ叩いていると、少しずつ冷静になってきました。
「あれ? え?」
ということは、テオドール様は他に好きな女性がいるのに、無理やり私に婚約者のふりをさせられていたってことになりませんか?
それってまるで私が二人の仲を裂く悪役令嬢じゃないですか!
「テオドール様、ごめんなさいぃいい」
もうどんな顔をしてテオドール様に会えばいいのかわかりません。そこに追い打ちをかけるようにレックス殿下の言葉が頭をよぎります。
――田舎者は本当に騙されやすいな
またボロボロと涙が出てしまいました。
「く、悔しい!」
あんな性格の悪いクズ男に好き勝手言われて、泣かされているのが悔しくて仕方ありません。
しかも、婚約者のマリア様と結婚したくないから、私と結婚してやるですって!? 冗談じゃないです! そんなのお断りです!
テオドール様もテオドール様です!
他に好きな人がいるなら、言ってくれれば良かったのに!
――お前を選んでくれる男なんかいないんだよ。
私は手に持っていたクッションを思いっきり投げました。今まで物を投げたことがなかったので、おかしな方向に飛んで行ってしまいます。それでも、なんだかスッキリしました。
「もういいです! 私は誰にも選んでもらえなくても!」
これまで王都から本を取り寄せて一人で楽しく過ごしてきましたから、またそういう生活にもどるだけです。それに、選んでもらわなくても、母から仕事を教わって、しっかりした女性になって、将来は憧れのセレナお姉様のお役に立って見せますから!
そのころには、私はすっごく良い女になっているはずです。そんな私を見て、レックス殿下もテオドール様も後悔すればいいんです!
「よし!」
そうと決まれば、もう寝ましょう。
アイツらを見返すためには、美容にも気をつけないと。
テオドール様のことを思うと、まだジクジクと胸が痛いですが、きっと月日がたてばこの思いも忘れられますよね?
こうして、私の勘違いだらけの恥ずかしい初恋は、失恋という結果に終わりました。
メイド達は、皆、夜会の手伝いに行っているようで部屋には誰もいません。
こういうときに、専属メイドがいなくて本当に良かったです。
なぜなら、今の私は涙をにじませて泣きそうになっているから。こんな姿を誰かに見られたら、心配されてしまいます。
私はにじんだ涙を指でぬぐってから、部屋の扉に内側からカギをかけました。そして、着ていたドレスを一人で脱ぎ始めます。普段から、なんでも一人でできるように練習していて良かったです。
服飾士たちも私がそうしていることを知っているので、私が着ているドレスは一人で脱げるような作りになっています。
ドレスを脱いで、髪飾りを外して、結ってもらった髪をほどいて。最後にアクセサリーを外そうとしたとき、私の手は止まりました。
テオドール様にいただいた、赤い宝石がついたネックレスとイヤリングが輝いています。また視界がにじみました。ふるえる手でなんとかアクセサリーを外します。
そのあとは、重い体を引きずるように、のそのそとナイトドレスに着替えて、私はベッドにもぐりこみました。
「……テオドール様、他に好きな人、いたんだ……」
ポツリとつぶやくと、こらえていた涙が次から次へとあふれてきてもう止められません。
テオドール様の優しい笑みや、温かな体温、安らぐ腕の中、心地好い声。それらはどうも私だけのものではなかったようです。
私より特別な誰かを、私より大切にしているテオドール様を想像すると、心が引き裂かれたように痛くて、息ができないほど苦しいです。
私は声をひそめて泣きました。
一人でどれくらいそうしていたのかわかりません。
泣きすぎて頭がボーッとしてきたころ、私の涙はようやく止まりました。
なんだか、いろんなことがありすぎてよくわかりませんが、結局のところ、テオドール様には他に好きな人がいるのに、ちょっと優しくされた私が両想いだと勘違いして痛い女になっていた、ということで合っているのでしょうか?
「……そういえば、テオドール様は私に恩返しがしたいって……。なんでもご命令くださいって……」
そう言ったテオドール様に私は、王都からバルゴア領に向かっている最中に「婚約者のふりをしてもらえませんか?」とお願いしました。
もしかして、テオドール様は私のそのお願いを命令だと思って、今までずっと恩返しをするために婚約者のふりをしてくれていたのでしょうか?
そう考えるとすべてのつじつまが合います。あの甘い言葉の数々も、アクセサリーの贈り物も、すべて婚約者のふりだったんですね。
私はあまりの恥ずかしさにベッドの上を転がりました。
「うわぁあん! 本当に私の勘違いだったぁあ! テオドール様、バルゴア領では婚約者のふりをしなくて良かったんですよ! 私、バルゴア領についたらお友達だって、ちゃんと皆に紹介したじゃないですかぁああ!」
そう叫びながらクッションをバシバシ叩いていると、少しずつ冷静になってきました。
「あれ? え?」
ということは、テオドール様は他に好きな女性がいるのに、無理やり私に婚約者のふりをさせられていたってことになりませんか?
それってまるで私が二人の仲を裂く悪役令嬢じゃないですか!
「テオドール様、ごめんなさいぃいい」
もうどんな顔をしてテオドール様に会えばいいのかわかりません。そこに追い打ちをかけるようにレックス殿下の言葉が頭をよぎります。
――田舎者は本当に騙されやすいな
またボロボロと涙が出てしまいました。
「く、悔しい!」
あんな性格の悪いクズ男に好き勝手言われて、泣かされているのが悔しくて仕方ありません。
しかも、婚約者のマリア様と結婚したくないから、私と結婚してやるですって!? 冗談じゃないです! そんなのお断りです!
テオドール様もテオドール様です!
他に好きな人がいるなら、言ってくれれば良かったのに!
――お前を選んでくれる男なんかいないんだよ。
私は手に持っていたクッションを思いっきり投げました。今まで物を投げたことがなかったので、おかしな方向に飛んで行ってしまいます。それでも、なんだかスッキリしました。
「もういいです! 私は誰にも選んでもらえなくても!」
これまで王都から本を取り寄せて一人で楽しく過ごしてきましたから、またそういう生活にもどるだけです。それに、選んでもらわなくても、母から仕事を教わって、しっかりした女性になって、将来は憧れのセレナお姉様のお役に立って見せますから!
そのころには、私はすっごく良い女になっているはずです。そんな私を見て、レックス殿下もテオドール様も後悔すればいいんです!
「よし!」
そうと決まれば、もう寝ましょう。
アイツらを見返すためには、美容にも気をつけないと。
テオドール様のことを思うと、まだジクジクと胸が痛いですが、きっと月日がたてばこの思いも忘れられますよね?
こうして、私の勘違いだらけの恥ずかしい初恋は、失恋という結果に終わりました。