【連載版】田舎者にはよくわかりません~ぼんやり辺境伯令嬢は、断罪された公爵令息をお持ち帰りする~【書籍化+コミカライズ準備中】

【第二章】03 もしかして、拗ねてます?

「えっと今、3日後に王女殿下の誕生日パーティーが開催されるから、よければ私たちも参加してほしい……って言いましたか?」

 夕食の場で語られた叔父様の言葉に驚きすぎて、私は聞いたことをそのまま繰り返してしまいました。

 王女殿下といえば、テオドール様の元婚約者アンジェリカ様を想像してしまいます。でも、アンジェリカ様はベイリー公爵家に嫁いだのでもう王女ではありません。

 今、この国の王女殿下といえば、アンジェリカ様の妹ロザリンド様です。今年で14歳になられるとのこと。

 叔父様は申し訳なさそうな顔をしています。

「急ですまないね。いつ王都に着くか分からないから、君たちは参加できないと王家に伝えていたんだけど、先ほど陛下から直々に参加するよう書状が届いたんだ」

 叔父様が合図を送ると、側に控えていた執事がテオドール様に書状を差し出しました。それを優雅な手つきで受け取るテオドール様。

 私が「今日、王都に着いたばかりなのに、私たちがここに来ていることがよく分かりましたね」と呟くと、叔母様が「あれだけの軍勢を引き連れて来たんだから、王都に入る前から皆知ってるわよ」と呆れています。

 そんなに目立っていたなんて……。
 やっぱり過保護すぎるのはダメなような気がします。

 叔父様は「実はその書状以外に私にも届いていてね。ターチェ家で君たちの参加を後押ししてほしいとのことなんだ」とテオドール様に話しています。

 それを聞いたテオドール様は、右手を自身のあごに当て、少し考えるような仕草をしました。

「王家はバルゴア領と交流が続いていることを貴族たちに見せたいようですね」
「まぁ、あんなことがあったからね」

 言葉を濁す叔父様に私が首をかしげると、テオドール様が説明してくれました。

「アンジェリカ様の元婚約者である私が、シンシア様とバルゴア領に向かったので、王家とバルゴアの今の関係性を王都の貴族たちは知りたいようです。王家とバルゴアが対立しているとなれば、他貴族も他人事ではありませんから」
「なるほど。皆さんは、王家とバルゴアがケンカしていないか知りたいんですね」

 確かに、私たちが王女殿下の誕生日パーティーに参加すると、仲良しアピールができますもんね。

 テオドール様の説明は、いつも分かりやすくて助かります。

 私が「じゃあ、参加したほうがいいんですか?」と尋ねると、テオドール様は頷きました。

「こちらとしても、国王陛下にシンシア様と私の婚約を認めてもらう必要があります。なので、パーティーに参加して好意的に振る舞うことで、王家に恩を売っておくべきかと。王家側もそれが分かった上で、強引に招待しているはずです」

 それは要するに、『婚約を認めてほしかったら、王女殿下のパーティーに参加しろ』ってことですね?

 テオドール様が「もし、シンシア様がお疲れなら、私だけでも」と言ったので、私は食い気味に「私も行きます!」と返しました。

 テオドール様と参加できるパーティーを私が断るわけがありません!
 正装姿のテオドール様を見れる機会なんて、バルゴア領ではめったにありませんからね!

 私に小さく微笑んだあとテオドール様は、叔父様に「参加させていただきます」と伝えました。

 叔母様が心配そうに「着ていくドレスはあるの?」と、私に尋ねます。

「はい、謁見用に持ってきたドレスをパーティーで着ようかと」

 テオドール様が贈ってくださった淡いピンク色のドレスで、私のお気に入りです。

「あら、一枚だけなの? じゃあ、謁見用のドレスをまた買いに行かないとね」
「え? 同じドレスじゃダメなんですか?」
「ダメに決まっているじゃない! 新しいのを買いに行くわよ」
「は、はい!」

 気迫に押された私が頷くと、叔母様は嬉しそうに笑みを浮かべます。

「楽しみだわ。シンシアはどういうドレスが好きなの?」
「あっえっと、その」

 私はチラッとテオドール様を見ました。

 テオドール様の赤い瞳が、私を見つめています。その瞳と同じ色のドレスを着たいと言ったら、叔母様は笑うでしょうか?

 何も言えずにテオドール様を見つめていると、テオドール様が微笑みながら小首をかしげました。その動きに合わせて黒髪がサラサラと揺れます。

 大人っぽい黒いドレスなんて、私には似合わないですよね……。

 思わずため息が出てしまいます。

 ふと叔母様を見ると「初々(ういうい)しいわねぇ」とニコニコしながら、叔父様と微笑み合っていました。二人はとてもお似合いです。

 いつか私もテオドール様とお似合いの夫婦になれるのでしょうか?

 食事が終わり、叔父様と叔母様と別れたあとも、その疑問は私の心に残っていました。

 私をエスコートしてくれるテオドール様は、本当に上品で優しくて、賢くて仕事ができるし、顔も素敵すぎるし声までいいし……あれ? 完璧すぎなのですが???

「シンシア様」

 そんなことを考えていたので、テオドール様に名前を呼ばれた私はビクッと身体を震わせてしまいました。

「は、はい?」

 顔を上げるとテオドール様が、ジッと私を見つめています。

「部屋に着きましたよ」
「えっ? あっ!」

 もう部屋の前に着いていたんですね。考えに夢中で気がつきませんでした。

「考え事ですか?」
「あ、はい。ドレスのことを……」

 テオドール様の手が私の頬に触れました。

「せっかく二人きりなのに」
「え?」

 驚く私からテオドール様は視線をそらしてしまいます。

「すみません。……どんどん欲が出てきてしまう」

 そう呟いたテオドール様の表情は、反省しているようであり、落ち込んでいるようにも見えます。

「シンシア様、おやすみなさい。いい夢を」
「お、おやすみなさい……」

 なんとか返事をしてから私は自分の部屋に入りました。

 今のって……もしかして、二人きりなのに私が別のことを考えていたから、拗ねちゃったってことですか?

 いや、まさか、テオドール様に限ってそんなことは……。

 でも、もしそうだったら?

 その夜、私はドキドキしすぎて、なかなか眠りにつくことができませんでした。
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