【連載版】田舎者にはよくわかりません~ぼんやり辺境伯令嬢は、断罪された公爵令息をお持ち帰りする~【書籍化+コミカライズ準備中】
07 会話が成立していないような……?
バルゴア領から王都に来るとき、私は長距離移動用の馬車に乗ってきました。
この馬車はとても大きく、私の身長なら馬車内で足を伸ばして寝ることができるくらい広いです。
テオドール様は、こういう馬車があることは本で読んで知っていたそうですが、実物は初めて見たとのことで興味深そうにしています。
まぁ、こんなに大きな馬車が王都を走っていたら邪魔で仕方ないですものね。バルゴア領でもよほどのことがない限り使いません。
そんなテオドール様に私は「どうぞ」と声をかけました。
「どうぞ、とは?」
不思議そうな顔をしているテオドール様。
「え? どうぞ馬車の中へ」
「ああ、馬車内も見せてくださるのですね」
馬車に乗り込んだテオドール様につづき私も馬車に乗り込みました。私達が乗り込んだことを確認した護衛騎士の一人が扉を閉めに来ます。
そのときにニヤニヤしながら、私の耳元で「お嬢、婿入り前の相手に手を出しちゃいけませんぜ」と下品な冗談を言ってきます。
本当に! そういうの! やめて!!
私がにらみつけると、「へへ、お二人でどうぞごゆっくり~!」と言いながら護衛騎士は扉を閉めました。
テオドール様は驚きの表情で私を見ています。
は、恥ずかしい……。
ゆっくりと動き出した馬車内で私はうつむいていました。
「シンシア様」
「は、はい!」
顔を上げるとテオドール様の眉は困ったように下がっています。
「その、馬車が動き出してしまったのですが?」
「はい? 何か問題が?」
この馬車は王都を出て今から急ぎバルゴア領に向かいます。
「あ、忘れ物ですか?」
今ならまだ王都から出ていないので取りに帰れます。
「いえ、そうではなく」
忘れ物じゃないならなんでしょうか?
私がテオドール様の言葉のつづきを待っていると、テオドール様は不思議なことを言いだしました。
「私が馬車に乗ったままなのですが?」
「え? はい、そうですね」
私とテオドール様は少しの間、無言で見つめ合いました。テオドール様の赤い瞳は、いつ見ても綺麗です。
テオドール様はまるで子どもに言い聞かせるように、ゆっくりと言葉をつむぎはじめました。
「シンシア様の馬車に、私が乗ったままです。私は降りて馬で行くので、馬車をとめて馬を貸していただけませんか?」
「どうして、テオドール様が馬車を降りる必要があるのですか? 馬車はお嫌いですか?」
「いえ、そうではありません。なんとご説明すればいいのか……」
私はここまで言われて、ようやくハッ!?と気がつきました。
テオドール様、もしかして私に襲われるんじゃないかと心配しているのでは?
さっきの護衛騎士の下品な冗談が聞こえてしまっていたのかも!?
「わ、私はテオドール様の嫌がることはしませんよ? もし私に何かされると不安でしたら私が馬車を降ります!」
「いえ、そういうことではなく!」
なんだか話が嚙み合っていないような気がします。
「……テオドール様は、私と馬車に乗るのはお嫌ですか?」
「決して! 決してそのような話ではありません! ただ、私が馬車に同乗しているのがおかしいだけです」
「どうしておかしいんですか? テオドール様は体調が悪いので馬より馬車のほうがいいと思いますよ。それに、私達は一応婚約者になったという形で王都からバルゴア領に向かいます。同じ馬車に乗るのは普通のことでは?」
テオドール様は「婚約者は、同じ馬車に乗る……?」とつぶやいています。
もしかして王都では違うのでしょうか?
テオドール様から深いため息が聞こえてきました。
「シンシア様、大変申し訳ありません。長年、王女殿下にお仕えしていて常識が飛んでおりました」
「え?」
テオドール様のお話しでは、王女殿下と婚約者らしいことをしたことがなかったそうです。移動の際の馬車は別々、夜会でエスコートすることも断られていたそう。
「王女殿下と婚約してからは、王女殿下の代わりに公務と後始末をする日々でしたので」
「それって……」
婚約者というより補佐官では?
とにかくテオドール様と王女殿下は一般的な婚約者ではなかったんですね。
そのことに少しだけ嬉しくなってしまった私はたぶん性格が悪いです。
「テオドール様、このまま馬車移動でいいでしょうか?」
「そうですね。今の体調で馬に乗ると、遅れをとってさらにご迷惑をかけてしまいそうです。申し訳ありませんが、このまま同乗させてください」
私はホッと胸をなでおろしました。
「良かったです」
テオドール様がこの世に存在してくださるだけで私の世界がキラキラしていますからね。バルゴア領に着くまで、ずっと一緒にいられるなんてご褒美以外の何物でもありません。王都まで来て本当に良かったです。
「テオドール様が一緒だと、とても楽しい旅になります!」
「シンシア様……」
テオドール様は小さく咳ばらいをしたあとに「そういえば」と話題を変えました。
「シンシア様がさきほどおっしゃっていた『何かされる』とはなんのことでしょうか? バルゴアでは婚約者たちは馬車内で何かするのですか?」
私は思いっきりむせてしまいました。
驚いたテオドール様が私の隣の席に移動し背中をなでてくれます。
「大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫、です」
顔がものすごく熱いです。穴があったら入ってしまいたい。
テオドール様は「王都とバルゴアではいろいろ違うようですね」と真面目な顔をしています。
「シンシア様、バルゴアのことを私に教えていただけませんか?」
「あっはい。でしたら私も王都のことを教えてほしいです!」
「もちろんです」
こうしてようやく会話が成立した私達ですが、その後、嬉しそうに微笑んだテオドール様の破壊力がすごすぎて、私はもう一度盛大にむせてしまいました。
この馬車はとても大きく、私の身長なら馬車内で足を伸ばして寝ることができるくらい広いです。
テオドール様は、こういう馬車があることは本で読んで知っていたそうですが、実物は初めて見たとのことで興味深そうにしています。
まぁ、こんなに大きな馬車が王都を走っていたら邪魔で仕方ないですものね。バルゴア領でもよほどのことがない限り使いません。
そんなテオドール様に私は「どうぞ」と声をかけました。
「どうぞ、とは?」
不思議そうな顔をしているテオドール様。
「え? どうぞ馬車の中へ」
「ああ、馬車内も見せてくださるのですね」
馬車に乗り込んだテオドール様につづき私も馬車に乗り込みました。私達が乗り込んだことを確認した護衛騎士の一人が扉を閉めに来ます。
そのときにニヤニヤしながら、私の耳元で「お嬢、婿入り前の相手に手を出しちゃいけませんぜ」と下品な冗談を言ってきます。
本当に! そういうの! やめて!!
私がにらみつけると、「へへ、お二人でどうぞごゆっくり~!」と言いながら護衛騎士は扉を閉めました。
テオドール様は驚きの表情で私を見ています。
は、恥ずかしい……。
ゆっくりと動き出した馬車内で私はうつむいていました。
「シンシア様」
「は、はい!」
顔を上げるとテオドール様の眉は困ったように下がっています。
「その、馬車が動き出してしまったのですが?」
「はい? 何か問題が?」
この馬車は王都を出て今から急ぎバルゴア領に向かいます。
「あ、忘れ物ですか?」
今ならまだ王都から出ていないので取りに帰れます。
「いえ、そうではなく」
忘れ物じゃないならなんでしょうか?
私がテオドール様の言葉のつづきを待っていると、テオドール様は不思議なことを言いだしました。
「私が馬車に乗ったままなのですが?」
「え? はい、そうですね」
私とテオドール様は少しの間、無言で見つめ合いました。テオドール様の赤い瞳は、いつ見ても綺麗です。
テオドール様はまるで子どもに言い聞かせるように、ゆっくりと言葉をつむぎはじめました。
「シンシア様の馬車に、私が乗ったままです。私は降りて馬で行くので、馬車をとめて馬を貸していただけませんか?」
「どうして、テオドール様が馬車を降りる必要があるのですか? 馬車はお嫌いですか?」
「いえ、そうではありません。なんとご説明すればいいのか……」
私はここまで言われて、ようやくハッ!?と気がつきました。
テオドール様、もしかして私に襲われるんじゃないかと心配しているのでは?
さっきの護衛騎士の下品な冗談が聞こえてしまっていたのかも!?
「わ、私はテオドール様の嫌がることはしませんよ? もし私に何かされると不安でしたら私が馬車を降ります!」
「いえ、そういうことではなく!」
なんだか話が嚙み合っていないような気がします。
「……テオドール様は、私と馬車に乗るのはお嫌ですか?」
「決して! 決してそのような話ではありません! ただ、私が馬車に同乗しているのがおかしいだけです」
「どうしておかしいんですか? テオドール様は体調が悪いので馬より馬車のほうがいいと思いますよ。それに、私達は一応婚約者になったという形で王都からバルゴア領に向かいます。同じ馬車に乗るのは普通のことでは?」
テオドール様は「婚約者は、同じ馬車に乗る……?」とつぶやいています。
もしかして王都では違うのでしょうか?
テオドール様から深いため息が聞こえてきました。
「シンシア様、大変申し訳ありません。長年、王女殿下にお仕えしていて常識が飛んでおりました」
「え?」
テオドール様のお話しでは、王女殿下と婚約者らしいことをしたことがなかったそうです。移動の際の馬車は別々、夜会でエスコートすることも断られていたそう。
「王女殿下と婚約してからは、王女殿下の代わりに公務と後始末をする日々でしたので」
「それって……」
婚約者というより補佐官では?
とにかくテオドール様と王女殿下は一般的な婚約者ではなかったんですね。
そのことに少しだけ嬉しくなってしまった私はたぶん性格が悪いです。
「テオドール様、このまま馬車移動でいいでしょうか?」
「そうですね。今の体調で馬に乗ると、遅れをとってさらにご迷惑をかけてしまいそうです。申し訳ありませんが、このまま同乗させてください」
私はホッと胸をなでおろしました。
「良かったです」
テオドール様がこの世に存在してくださるだけで私の世界がキラキラしていますからね。バルゴア領に着くまで、ずっと一緒にいられるなんてご褒美以外の何物でもありません。王都まで来て本当に良かったです。
「テオドール様が一緒だと、とても楽しい旅になります!」
「シンシア様……」
テオドール様は小さく咳ばらいをしたあとに「そういえば」と話題を変えました。
「シンシア様がさきほどおっしゃっていた『何かされる』とはなんのことでしょうか? バルゴアでは婚約者たちは馬車内で何かするのですか?」
私は思いっきりむせてしまいました。
驚いたテオドール様が私の隣の席に移動し背中をなでてくれます。
「大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫、です」
顔がものすごく熱いです。穴があったら入ってしまいたい。
テオドール様は「王都とバルゴアではいろいろ違うようですね」と真面目な顔をしています。
「シンシア様、バルゴアのことを私に教えていただけませんか?」
「あっはい。でしたら私も王都のことを教えてほしいです!」
「もちろんです」
こうしてようやく会話が成立した私達ですが、その後、嬉しそうに微笑んだテオドール様の破壊力がすごすぎて、私はもう一度盛大にむせてしまいました。