突然シンデレラ~王子様は実在しました~
「そのお話は、本当に今でも有効なんでしょうか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます! よろしくお願いいたします」
「ああ、こちらこそ」

 結婚で何もかもを諦めることになると思っていたのに、諦めるどころか全てを手に入れることができている。そう、恐いほどに……

 事務所を出て、何もなかった冷蔵庫を思い出して、スーパーへ寄る。家事全般は、蘭々とは違い得意な方だ。ただ、高層マンションの最上階の暮らしには、何かとルールがありそうだし、確認する必要がある。飲み物や朝食の材料など、最低限だけ買ってマンションへ戻った。

 マンションに着いて上を見上げると、最上階は遥か彼方……

 深呼吸してからエントランスを目指す。

「宇田川様、おかえりなさいませ」
「た、た、ただいまかえりました」

 悪いことをしているわけではないのに、怯えてしまう。何度も頭を下げながらエレベーターへ向かう姿は、きっと不審に思われたはずだ。

 無事にエレベーターへ乗り込んだ時には、「はぁ」と朝と同じく安堵のため息を漏らす。
< 33 / 58 >

この作品をシェア

pagetop