EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー

fight.22

 ――今日は、舞子の部屋に泊まります。

 そう、朝日さんにメッセージを送ると、あたしは、そのままスマホをテーブルに投げた。
 そして、先にお風呂から上がった舞子に尋ねる。
「ホントに、秋成さん、出先で泊まってもらって良かったの?」
「良いの、良いの。――アンタは、アキよりも優先されるから」
 うれしいような、申し訳ないような。
「秋成さん、納得してるのかな……」
「大丈夫よ。――大体、あたしと付き合うって時、アンタを優先するって約束したんだから」
「……良いの、それ……?」
 申し訳なさが、大部分を占めた。
 けれど、舞子は、鼻息を荒くして続ける。
「良いの!――アンタは、唯一無二の親友よ。恋と友情なら、アタシは友情を取る女だから」
 あたしは、クスリ、と、笑い返す。
 そして、ベッドのそばに客用布団を敷いて、その上に座った。
「……ありがと」
 お互いに笑い合うと、不意に、投げたあたしのスマホが振動した。
 画面を見やれば――朝日さんからの着信。
 あたしは、一瞬迷う。
 チラリと舞子を見やれば、既にドライヤーを抱えて洗面所に戻って行った。
 ――自分で考えろ、って、コトね。
 あきらめ加減で、震え続けるスマホを手に取り、通話状態にする。
「――もしもし」
『……どういう事だ』
「……どういう、とは」
 すると、朝日さんは、不機嫌そうな声音で続けた。
『お前、まだ本調子じゃないだろう。……親友の()――舞子くん、だったか、に、伝染(うつ)したら、どうする気だ』
「――……もう、平気ですので」
『美里』
「大丈夫です」
 頑なになってくる口調に、朝日さんは、電話越しにため息をついた。
『……何を意地になっているんだ、お前は』
「なっていません」
 ……あたしの気持ちなんて、わからないくせに。
 そう続けたかったが、言葉は飲み込んだ。
『――迎えに行く。……これから、車出すから』
「帰りませんってば!もう、寝る準備しちゃいましたし」
 勝手に話を進めそうになる朝日さんを、あたしは、急いで止める。
 だが、次には、耳元にあてていたスマホは消えた。
 顔を上げれば、舞子が手に持っている。
「……舞子?」

「――美里は、アタシが、責任持ってお預かりしますから。今日は、一人寝でガマンしたらどうです?あんまり束縛が強いのも、嫌われますよ?」

「まっ……舞子!」

 何を言い出すかと思ったら!
 あたしは、慌てて舞子からスマホを奪い返した。
「……あ、あの……朝日さん……」
『……わかった。……じゃあ、明日の朝、迎えに行く。仕事には行くんだろう?』
「……ハ……ハイ……」
 言葉の裏に、圧を感じて、あたしは肩をすくめる。
 ――でも、まあ、話は済んだ。
 そう思い、通話を終えようとすると、呼び止められた。
『待て、美里』
 ――まだ、何かあるの。
 あたしは、眉を寄せて、ハイ、と、返す。
 すると、朝日さんは、気まずそうに言った。

『――……部屋にいるのは、舞子くんだけ……なんだろうな』

 その言葉に、あたしは、一瞬、はてなマークが浮かんだ。
「……ハイ?」
『だから……あの、デカいヤツは、いないんだろうな』
 ――ああ、秋成さんが、一緒かどうか気になったのか。
 あたしは、舞子を見やると、彼に言った。

「秋成さんは、今日は、ホテルにお一人で泊まるそうです」

 朝日さんは、ごにょごにょと、何か言っているが、よく聞こえない。
「……何ですか、朝日さん?」
『……いや……じゃあ、お休み』
 耳元で低く囁かれ、思わず手で口をふさいでしまった。

 ――もう!

 あたしは、スマホを真っ赤な顔でタップし、通話を終えた。
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