EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー

fight.23

「お待たせしました。わがままを聞いていただきまして、ありがとうございます」

 時間きっかりに、高根さんは、再び会社に来てくれて、ロビーで待機していたあたし達に頭を下げた。

「いえ、お気になさらず。――それで、現地までどのくらいでしょうか」

 朝日さんが、一歩前に出て、彼に尋ねる。
 ――それだけなのに、妙な空気になった気がするのは、何でだろう。
 高根さんは、営業スマイルで返した。
「隣のN市森林公園キャンプ場の、バーベキューエリアを使用いたしますので、ここから車で二十分ほどでしょう。国道を直進すれば、すぐです」
「わかりました。よろしくお願いします」
「こちらこそ、お願い致します」
 お互いに、そう言葉を交わすと、高根さんは車まで案内してくれた。
「――じゃあ、出発しますね」
 そして、彼は、助手席に朝日さんが、あたしが後部座席にそれぞれ乗ると、車を出発させる。
 普通車なので、そんなに狭い訳じゃないはずなのに、息苦しく感じてしまう気がする。
 ――せっかくの下見なのに。
 あたしは、前を見たままの朝日さんをのぞき込んだ。
「何だ、白山」
 若干不機嫌な口調で答えられ、思わず言葉に詰まってしまった。
「え、あ……あの……初日で、三十人ほどの申し込みがあったんですが……多すぎるのも、どうかと思って……」
 あたしがそう言うと、朝日さんは、チラリと高根さんに視線を向けた。
 それに気づき、彼はスラスラと答える。
「それについては、ご心配なく。こちらも社員総出で対応予定にしていますし、五十人以上の申し込みであれば、日にちを分けるという手段もありますので」
「だが、日程の追加は経費が増すでしょう。承認をもらったのは、一日のみの開催ですので」
 朝日さんが、そう言うと、高根さんは一瞬気まずそうな表情を見せた。
「……そうですね。……でしたら、こちらも社長に交渉してみます。何にせよ、締め切り後に調整になりますので」
「お願いします」
 二人の会話を、あたしは、ビクビクしながら聞いていた。

 ――……何か、空気がピリピリしてる気がするんですけど!

 必要最低限の会話をしばらくしていると、目的地が見えてきた。
 あたしは、思わず見入ってしまう。
 森林公園、というだけあって、辺り一面木々が生い茂っていて、ところどころに標識がある。
 奥に向かって、キャンプ場という文字が書かれた看板を見て、その通り向かうと、山道のような狭い道。
 そこを少し行くと、急に開けた場所に到着する。
 駐車場に車を停め、高根さんは、あたし達をうながした。

「お待たせしました、到着です。キャンプ場の管理人の方に、一応、挨拶だけでも」

「わかりました」

 朝日さんとうなづくと、あたし達は、高根さんの後をついて行き、ロッジのような建物に入った。
 そこは管理事務所のようで、管理人だろう――帽子を被った年配の男性が、奥からやってくる。
「ハイハイ、おや、高根さんじゃないですか」
「お世話になっております。今日は、来月末に予約していた鈴原冷食さんの担当者の方達と、下見をさせていただこうかと思いまして」
「ああ、どうぞ、どうぞ。お任せしますよ。鍵がある場所は使わないんでしょ」
「ええ、バーベキューエリアのみですので」
 すると、会話が終わったところで、朝日さんが前に出ると、管理人さんと挨拶を交わす。
 名刺を渡すと、あたしへと視線を向けたので、慌てて自分の名刺を取り出して同じように手渡した。
「担当の白山です、よろしくお願いします」
「ご丁寧にどうも」
 そう言って頭を下げると、管理人さんも、恐縮したように頭を下げた。

 挨拶を終えると、全員でバーベキューエリアに向かう。
 先頭に高根さん。
 あたしと朝日さんは、その後をついて行った。
 左手に川が見えるそこは、かなり広くスペースが取られていて、相当な人数でも大丈夫のようだった。
「後ろのロッジに、いろいろと用意されています。当日、僕達は、往復になりますので」
「あ、あの、あたし、お手伝いした方が……」
 すると、高根さんは、ニッコリと微笑んだ。
「ありがとうございます。でも、こちらでさせていただくお約束ですから」
 そう言われれば、引き下がるしかない。
 あたしとしては、任せっきりは落ち着かないけど、彼も仕事なんだから、仕方ないのだ。
 高根さんに案内されながら、あたしと朝日さんは、当日の流れを話し合った。
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