EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「美里、本当に大丈夫か?」
 いつまでも出て来ないので心配になったのか、朝日さんが、再びドアを開けた。
 そして、未だに裸のままのあたしを見ると、視線を逸らし、苦々しく言う。
「……おい、また煽ってるのか」
「ち、ちが……っ……!」
 慌てて首を振ると、あたしは、ベッドに手を置き、立ち上がろうとする。
 だが、やはり、まだ感覚が戻っていないようで、そのまま、ヒザから崩れ落ちてしまった。
「だ、大丈夫か⁉」
「……朝日さんのせいっ!」
「え?」
 キョトンとする彼を、あたしはにらみ上げる。
「……腰、抜けたのっ!力が入んない!」
「――え」
 ようやく状況を把握したのか、彼は真っ赤になって、顔を伏せた。
「……悪い……」
 そして、すぐに、素っ裸のあたしを抱え上げると、ベッドの端に腰を下ろさせる。
 あたしは、慌てて布団を引っ張り上げ、身体を隠すように巻き付けた。
「ひとまず、オレの服でも着ておくか。Tシャツくらいなら、着られるだろう」
「……た、たぶん」
 あたしがうなづくと、朝日さんは目の前のクローゼットを開け、ケースから黒いTシャツを取り出した。
「ホラ」
「きゃ!」
 そして、問答無用で頭から被せられてしまい、あたしは顔を出すと抗議する。
「自分で着られるっ!」
「ハハッ!」
 すると、砕けた笑顔を向けられ、目を丸くした。
 ――え、何、そのカオ。
 頬が赤くなるのを感じるが、彼から視線が離せない。
「可愛いな」
 朝日さんは、そう言いながら、あたしの髪を整える。
 どうやら、ボサボサになっていたようだ。
「……バカ」
「悪いな」
 朝日さんは、クスリ、と、口元を上げると、あたしにキスをした。
「夕飯、持ってこようか」
「え、後で行くから……」
「いいから」
 引き留めるあたしをよそに、彼は、上機嫌で部屋を出て行く。
 それを見送ると、はた、と、我に返った。
 ――ヤバイ!下着!
 裸にシャツ一枚なんて、男性向けのエロ本のような姿は恥ずかしすぎる。
 あたしが身に着けると同時に、朝日さんが食事を乗せたトレイを持って入って来た。
「美里?」
「えっ?」
 挙動不審になりそうなあたしに、彼は眉を寄せる。
「どうかしたのか?どこか痛むのか?」
「ち、違う!そうじゃなくて……」
「だが」
「しっ……下着!……着てなかったから……その……」
「――あ、ああ、そうか」
 理由がわかると、お互いに気まずそうに視線を逸らすが、すぐに朝日さんはベッドの端に腰を下ろした。
「じゃあ、ちゃんと食べられそうだな」
「――うん」
 あたしがうなづくと、彼はトレイをあたしのヒザに置く。
「じゃあ、それ持っていろ」
「え、え、ちょっ……」
 聞き返すよりも早く、お茶碗を手に取り、あたしにご飯を食べさせようとするので、あたしは、慌ててしまう。
「何だ?ホラ、口開けろ」
「じ……自分で食べられるからっ!」
「いいから」
「良くないっ!」
 ふてくされるあたしに、朝日さんは、眉を下げた。
「無理させた詫びだ」
「平気だから!……無理なんて、させられてないし……」
 どんどん口ごもってしまうあたしを、彼はキョトンと見てくる。
「――……あっ……あたしも、気持ち良かったからっ……お互い様なの!だから、朝日さんも気にしないで、普通でいてよね」
 耳まで熱を感じてしまうが、仕方ない。
 このままじゃ、あたしは、介護状態になってしまいそうだもの。
「……そ、そうか。……なら、オレもここで食べる」
「え」
 そう言って、朝日さんは持っていたお茶碗をあたしに手渡すと、部屋を出る。
 そして、自分の分を同じようにトレイに乗せて持って来た。
「――朝日さん?」
 ベッドのそばに折り畳みのイスを置くと、彼は座ってあたしに言った。
「……もう、一人で食べるメシは、味気ないんだよ」
「……え」
「――お前がいないと、さみしい」
「え」
 ポツリとそう言うと、朝日さんは、すぐにご飯に手を付け始めた。
 照れ隠しなのは――真っ赤になった耳を見れば、簡単に想像がつく。

 ――……どうしよう……。

 ……うれしい……。

 妙に素直に気持ちを伝えてくる彼を、あたしは、ひたすら、愛おしく感じてしまった。
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