EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
 夕飯を終え、少しベッドで休んでいたら、どうにか立てるようになったので、あたしは、立ち上がって部屋から出た。
 そして、今更ながらに思い出した事を尋ねる。
「ねえ、朝日さん。そう言えば、買い出し行ってない」
「ああ、それなら、ネットスーパーで頼んである」
「え」
 後片付けを終え、コーヒーを淹れていた朝日さんは、あっさりとそう告げた。
 ――ホント、抜かりないわね。
 あたしは、あきれながらも、少しだけおぼつかない足取りで、リビングに出る。
 どうにか、歩く事はできるようになったようで、一安心だ。
「美里、コーヒーは飲むか?」
「え、あ、うん」
 あたしはうなづくと、ソファにゆっくりと腰を下ろす。
 朝日さんは、コーヒーカップを両手に持ち、こちらにやって来た。
「ホラ」
「あ、ありがと……」
 あたしに差し出されたカップを受け取ると、すぐに、かぐわしい香りが鼻腔をくすぐり、思わず息を吐いた。
「……良い香り」
「――プロじゃないが、味は悪くないと思うぞ」
 あたしは、うなづくと、そのままカップに口につける。
「――おいしい」
「なら、良かった」
 見上げれば、朝日さんは、立ったままコーヒーを飲んでいた。
 その姿は、まるで、ドラマの中の俳優のようで。
 今更ながら、この人の容姿に見とれてしまった。
「……何だ?」
「う、ううん……何でもない」
「ようには見えないが?」
 追及してくる彼に、あたしは、口ごもる。
 だが、不安そうな表情に、心配してくれているんだと気づけば、素直に言葉が出てきた。

「――……た、ただ……その……カッコいい、な、と……」

 その言葉に目を丸くした彼は、そうか、と、言うと、すぐにコーヒーを口にする。
 平静を装っているけれど――コレは、照れているんだ。
 そんな事に気づいてしまい、あたしは、笑みが浮かぶ。

 少しずつ、少しずつ――彼という人間が理解できてきたようで、何となく、心が弾んだ。


 コーヒーを二人で飲み終え、今度はあたしがカップを洗って片付けると、リビングのソファに戻る。
「美里」
「え?」
 すると、すぐにあたしは、朝日さんのヒザに乗せられた。
「え、ヤダ、重いからっ!」
「全然。……それより、こうしていたい」
 そんな風に、甘えるように言われれば、許すしかないじゃない。
 彼はあたしの腰に手を回し、首筋に口づける。
「あ、朝日さん?」
 あたしが振り返ろうとするのを止めるように、更にキスを落としていく。
「……悪い。……昨日から、甘えてばかりだな、オレは……」
「気にしないでよ。――あたしが、そう言ったんだし」
「……何だか、お前がダメ男作る理由が、わかった気がする」
 その言葉に、浮かれていた心は、急降下した。
「――……朝日さんは、ならないんでしょ……」
 あたしは、視線を下げると、ポツリとこぼす。
「当たり前だろ。……だがな、お前とこういう風になって、気がついた」
「え?」
「お前、たぶん、彼氏になった男達の事、全部受け入れてきたんだろう。……それで、母親みたいだって言われてきたんだろうな」
 そう言って、朝日さんは後ろからあたしを抱き締める。
 回された腕に力を込めて、彼は続けた。
「――何をしても、許される。……そりゃあ、甘えたくもなるよな……」
「朝日さん……?」
「美里……間違えるなよ。……自分の気持ちを押さえつけてまで、受け入れる必要なんて無い。――大事なのは、お前自身がどう思うか、だから……」
 その言葉に、あたしの心がざわつく。
 ……そんなの……できるくらいなら、とっくにしている。
 元カレ達と別れた時に、散々痛い目に遭って、そのたびに、舞子に言われてきたし、あたし自身も自覚してきた。

 ――……でも、やっぱり、受け入れてしまうんだ。

 ――……そうしなきゃ、あたしは、すぐに捨てられる女なんだから……。
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