EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー

fight.25

 翌朝、ぼんやりとした頭が温もりを感じ、目をうっすらと開けると、端正な顔があたしを見つめていた。
「おはよう、美里」
「お、おはようございます」
 条件反射のように挨拶をすると、額を軽く小突かれる。
「――また、敬語に戻ったな」
「……ご、ごめんなさい」
 あたしは、ふてくされる朝日さんを見上げるが、すぐに我に返った。
「あ、朝ごはん!」
「もう少し、ゆっくりしておけ」
「でも、遅刻……」
「今日は日曜だぞ」
「あ」
 完全に、感覚がおかしくなってしまったみたいだ。
 あたしは、バツが悪くなり、顔を伏せる。
 クスリ、と、笑い声が聞こえたのは、気のせいにしておこう。
「――身体は、平気か?」
「……うん……」
 結局、一緒のベッドというのが彼を刺激したようで、昨晩も求められてしまったのだ。
「……ダメだな、どうも……。この歳で、こんな風になるとは思わなかった」
「……朝日さんって……」
 あたしは、口からこぼしかけて、慌てて手でふさぐ。
 いや、絶倫、とかいうヤツ?なんて、本人に聞く事じゃないし。
 ていうか、そもそも、何考えてるんだ、あたしは。
「何だ?」
「う、ううん。……何でもない」
「ようには見えないが?」
 言いながら、彼は、あたしの肌に手を滑らせてきた。
「や、あっ……!ちょっ……朝日さん!」
「――やっぱり、気持ちいいな」
 一人、悦に入ったように言うので、その手をつねった。
「いっ……!」
「……朝日さん、ホントに、加減っていうものを知らないんですねっ!」
 このままなだれ込みそうで、あたしは、彼をにらみつけた。
 すると、バツが悪そうに手を離し、起き上がる。
「……だから、言っただろう」
「開き直らない!」
「……じゃあ、ダメか?」
 シュンとしたように見つめられ、あたしは、言葉に詰まる。
「……ダメ、じゃ、ないけど……」
 やっぱり、求められるのは、うれしくなってしまうんだ。
 朝日さんは、上機嫌であたしを抱き締め、そのまま昼近くまで、あたしをゆっくりと可愛がってくれたのだった。


 ゆるゆるとした時間が過ぎ、気がつけば日は高くなっていて、あたしは我に返る。

 ――このままじゃ、あたし達、二人そろってダメになるじゃない!

 人としての最低限の生活を、元カレに説いたあたしがこんなんじゃ、本末転倒。
 何をえらそうになんて思われたら、たまったもんじゃない。
 けれど、朝日さんは、お構いなしに、起きようとしたあたしに抱き着いてきた。
「……朝日さん、離して」
 あたしが不機嫌さを隠さずに言うと、彼は首筋を強く吸い上げた。
「……っん!」
 ビクリと身体が跳ね上がるのは、もう、反射だ。
 その反応に気を良くした朝日さんは、耳元でその低い声で囁く。
「まだ良いだろ?」
 けれど、今のあたしには通用しない。
「……朝日さん」
 段々と低くなる声に、彼はようやく、あたしの機嫌が悪くなっている事に気がついたようだ。
「美里?」
「離してください」
「……また敬語に戻ったな」
「離してくださいって言ってるんですが」
 ジロリと朝日さんを振り返れば、彼は言葉に詰まる。
「ちゃんと、けじめはつけましょう。今日、やらなきゃいけない事は、たくさんあるはずですが」
 せっかくの休日。
 洗濯も掃除も、平日では、簡単にしかできないんだから。
 こうやって抱き合うのは、懸念事項を片付けてからにしたいんだ。
「……朝日さん、やっぱり、部屋、別にしましょうか」
 あたしは、そう言って、ベッドから下りようとするが、すぐに彼に引き留められた。
「な、何を……」
「だって、朝日さん、止めても聞いてくれないでしょう」
「――それは、まあ……頑張ってはいるんだが……」
「あたしのせいにしないでくださいね」
 毎回毎回、あたしが煽っているように言うけど、朝日さんの理性も、かなり緩くなっているじゃない。
 あたしは、そう心の中でボヤくと、ふい、と、彼から顔を逸らす。
 すると、慌てたように後ろから抱き締められた。
「……朝日さんの、バカ」
 恨みがましく言うと、彼は、しおらしく続ける。
「――反省してる」
「……もう、次に、こんなだったら――」
「わかった、悪かった。頼むから、機嫌直してくれ」
 すがるように抱き着き、甘えるように言う彼に、あたしは毒気が抜かれてしまう。
 ――ホントに、あたしより年上なの?
 思わず、苦笑いが浮かぶ。
「……しょうがないわね」
 あたしは、そう言って、彼の方を振り向くと軽くキスをした。
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