EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
 ダルい身体をどうにか動かし、先に出た朝日さんよりも一時間ほど遅く出勤する。
 いつも通りの総務部。
 あたしは、通りがかりに顔を合わせる人達と挨拶を交わし、自分の席に着いた。
 すると、パソコンの下の方に、付箋でメモが貼ってあった。
 ――ライフプレジャー社高根様、折り返しお願いします。
 それを手に取ると、自分のパソコンを立ち上げ、メール画面を出し、固まった。

 ――うそ。

 バーベキュー大会の申し込みが、倍以上に増えていて、うれしさとともに、困惑してしまう。
 ――どうしよう。
 完全に定員オーバー。
 予想では、いいトコ、五十人から八十人もいれば御の字という感じだったのに。
 問い合わせも数件あり、すべて、他の支社の方ではやらないのか、というもの。
 今回は、初めての試みだし、予算も一日分だけなので、本社エリアだけとの指示なのに。
 それに、高根さんのところで、全国規模は無理だろう。
 あたしは、席を立つと、朝日さんの元に向かった。
 和田原課長と話していたので、軽く会釈をする。
「おはよう、白山。どうかしたのか」
「……おはようございます。少々ご相談が……」
 あたしは、そのまま二人の間に入り、定員オーバーと他エリアの開催の問い合わせの件を報告する。
「すごいね、意外と需要があったんだ、こういうの」
 和田原課長が、感心したように言う。
 朝日さんは、眉を寄せて、腕を組んだ。
「……ひとまず、今回は実験的な意味も込めてだから、他エリアは考えていない。申し訳ないが、結果を見て、開催可能か考える。不公平感は否めないが、社長に進言して許可があれば、秋口にも各支社エリアで開催しよう」
「承知しました。これから高根さんに折り返し連絡しますので、伝えておきます」
 あたしがそう言うと、朝日さんは、一瞬、眉間のシワを深くした。
「――了解」
 その視線の強さにたじろぎながら、あたしは、自分の席に戻る。
 そして、高根さんの携帯に電話をかけると、二コールで出た。
「おはようございます、鈴原冷食、白山です」
『ああ、おはようございます。すみません、朝から』
「いえ、何か変更でもありましたでしょうか」
 あたしが尋ねると、彼は、いえいえ、と、返す。
『ただ、参加人数がどんなくらいかと思って。社長に言ったら、全社員総出で対応なら、百人が限度――もしくは、少しだけお手伝いもらえないと、いけないそうで』
 その答えに、申し訳なくなる。
 だが、伝えなければ、彼も困るのだ。
「……あの……現時点で、九十人あまりで……」
『そうですか!じゃあ、申し訳無いんですが、そこで一旦締め切らせてもらえますか』
「――あと、一週間ありますが」
 告知後の締め切りは二週間をみていたのに。
『でしたら、本当に複数回の開催をお願いします。――人的にも余裕が無いと、ウチも手厚いフォローができませんので』
 いつもの高根さんとは違う、頑なで強硬な口調に、あたしはひるんでしまった。
 これが、仕事上の彼なのか。
 あたしは、大きく深呼吸する。
「――私では判断いたしかねますので、上司から折り返しご連絡差し上げたいと思いますが、いかがでしょうか」
『……わかりました。ですが、あまり引き伸ばせませんので。ウチも、その時期には繁忙期に入りますから』
「伝えておきます。――できる限り早くお返事いたしますので」
『お願いします』
 お互いに引く事もできず、通話を終える。
 そして、あたしは、急いで朝日さんに伝えた。
 すると、彼はすぐに社長に連絡を取り、午後にはこの件で会議が開かれてしまう事となった。
 ――……完全に、あたしが読み違えたのか。
 こういったイベント事の需要は、全然読めなかった。
 他社は他社。
 ホームページなどを見ても、想像ができなかったのが原因だ。
 ――……だって、本当に縁が無かったんだもの。
 そんなの、言い訳なのはわかっているけれど、心の中でふてくされてしまった。
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