EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
 しばらく、片付けをしたり、洗濯や家事を済ませ、お風呂も済ませる。
 時計を見やれば、もう、十時半を過ぎた。
 あたしは、キッチンのテーブルに置いたままの夕飯の皿を見やる。
 簡単に温め直して食べられるように、ラップはしているが――ここまで遅いなら、冷蔵庫行きか。
 そう思い、皿に手を伸ばすと、不意に玄関のドアが開き、あたしは顔を上げた。
「お、お帰りなさい」
「――ただいま。先に休んでも良かったんだぞ」
 朝日さんは、そう言いながら、玄関脇の棚にバッグを置き、上着を脱ぐとネクタイを緩めた。
 そのしぐさに妙な色気を感じてしまい、あたしは思わず、手元に視線を下げてしまう。
 ごまかすように、夕飯の支度をしようとすると、すぐに、後ろから彼に抱き締められた。
「あ、朝日さん?」
「――……さすがに、疲れた」
「え」
 顔を上げると、すぐに唇はふさがれ、あっという間に服の中に手が滑り込んでくる。
「あ、朝日さん!」
「……ちょっとだけだ」
「あ、や、バカッ……!」
 言葉とは裏腹な手の動きに、敏感に反応してしまう。
「……朝日さんってば!」
 身をよじるが、彼の身体に包み込まれ、動きが取れない。
「――もうっ……言ったのにっ……!反省してないっ……!」
「ちゃんと、手加減する」
 そう言って、あたしの反応を楽しむと、朝日さんは、また、そこかしこにキスマークをつけ満足そうに笑った。
 その場にへたり込み、にらみつければ、再びキスで翻弄される。
 そして、力が入らないあたしを抱え上げ、寝室に向かおうとするので、思い切り彼の頬をつねった。

「いっ……‼」

「……ご飯、作ったのにっ……」

 恨みがましく言うと、朝日さんはチラリと、料理が並んでいたテーブルを見やる。
 そして、バツが悪そうな表情で、あたしを下ろした。
「……悪い。……ちゃんと、食べるから」
「ハイ」
「敬語」
「……なっても、仕方ないですよね?」
 ジロリと見上げ、そう続けると、朝日さんは苦笑いであたしに抱き着く。

「――ゴメン。反省してるから――な?」

「……っ……!」

 甘えたような口調に、あたしは目を見開き固まる。

「……あ、朝日、さん?」

 すると、彼は、あたしを楽しそうに見下ろすので、動揺を隠すようにそっぽを向いた。
「……突然、何よ。……べ、別人かと思ったじゃないっ……」
「――ダメか?」
「……ダメ、じゃないけど……」
 今までとのギャップに、あ然としてしまう。
 けれど、彼の外見からだったら、こっちの方が逆にしっくりくるのかもしれない。
 ――それに……。

「……可愛い」

 あたしは、にやついてしまった顔を見られたくなくて、彼を自分の胸に抱き寄せた。
 それは――子供を抱き締める母親のようで――でも、あたしの中では、何も違和感は無くて。
「……美里?」
「――二人きりだったら、どんどん甘えて良いからね」
「……バカ。オレのセリフだろうが」
 お互いに笑いながらキスをすると、朝日さんは、名残惜しそうにあたしを離す。
「じゃあ、食べるから、先に休め」
「……でも……」
「大丈夫だ。……今のでだいぶ、疲れは取れた」
「バカ」
 あたしは、皿をレンジに入れながら言う彼の背に抱き着いた。
「美里?」
「……ま、待ってる、から」
「え」
「一緒に、寝たい……です……」
 取り繕うように続けると、朝日さんは、苦笑いで軽く頬にキスをくれた。

「――明日、仕事だぞ?」

「手加減してくれるんでしょう?」

「まあな。――ただ、認識が違うと怒るなよ」

「……え」

 ニヤリ、と、含み笑いを見せると、彼は上機嫌で夕飯を温める。
 一瞬だけ後悔しそうになったけれど――まあ、大丈夫だろう。

 ――けれど、本当に認識に差があるとわかるのは、翌朝になってからだった。
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