EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「――おはようございます。白山先輩、どこか、ケガしたんですか?」

「お、おはようございます。……ち、ちょっと、ひねちゃったのかもしれないけど……大丈夫、です」

 曽根さんは、不自然な動きのあたしを心配そうに見やるが、うなづくと自分の仕事を始めた。
 あたしも、ゆっくりと自分の席に着く。

 ――……朝日さんのバカッ!!

 出勤するまでも、何度も心の中で繰り返した。
 結局、明け方まで、彼が離してくれる事は無く、最後は意識を飛ばし、彼の出勤直前に起こされたのだった。
 当の本人は、素知らぬ顔で仕事を進めているようで、今は、課長二人と席で話し合っていた。
 半分は筋肉痛。
 そして――下半身の違和感は、もう、あきらめた。

 ――だからって、欠勤はできない。

 かなり寝不足な頭を振ると、あたしは、気を取り直してパソコンを立ち上げ、メールチェックから始めたのだった。


 バーベキュー大会のスケジュールを修正して、秋に全支社開催をアナウンスするメールを出すと、あたしは、ほう、と、息を吐いた。
 そして、再び頭を悩ませる。
 ――そもそも、リア充が参加するようなイベントを、全然縁の無かったあたしが担当しろっていうのが、おかしいんだけど。
 けれど、あたしが与えられたんだから仕方ない。
 ――それに、もう、これ以外は曽根さんや、他の人間に渡っているんだから、精一杯やらなきゃ。

 ……あたしが、必要とされているのは、今はコレだけなんだから。

 提出済みの一年間の企画は、全社員対象。
 各支社でも開催可能で考えてはいるが、企画はそれこそ様々だ。
 ひとまず、無難なところで、春には花見、冬はレジャーも兼ねた温泉旅行を選んではいた。
 あたしは、高根さんからもらった提案書を眺め、ため息をつく。
 もう少し、詳しく詰めなきゃいけないなら、やっぱり、彼の話を聞かないとわからないな。

 ――……高根さん、今度の飲み会、参加するって言ったわよね……。

 来週よりは、今週だ。

 あたしは、昼のベルが鳴ると、すぐに立ち上がり、小坂主任の元に向かった。


「あら、良かったわ!吉浦(よしうら)社長、気にされてたから。――でも、昨日の今日で、気が変わったの?」
「――……ええ、まあ。では、金曜日、よろしくお願いします」
 あたしが、小坂主任に頭を下げようとすると、彼女は苦笑いでそれを止めた。
「言ったでしょ、プライベートだって。そんなかしこまるような集まりじゃないわよ」
「――ハイ」
 彼女は、半ばあきれたように言い、すぐに、スマホを出した。
「じゃあ、参加って伝えておくから」
「ハイ」
 あたしは、うなづくとそのまま、お昼を自分の場所で取り始める。
 今日、朝日さんは、他の部長に誘われたらしく、渋々社食に向かって行った。
 ――お弁当は、夕飯行きだな。
 そんなコトを思いながら、あたしは、自分の分のお弁当を突き始めた。
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