EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー

fight.27

 その後、どうにか体裁を整えたバーベキュー大会の企画書を、朝日さんに提出する。
 もう、和田原課長は、見守る係に徹するらしい。

「――白山」

「ハ、ハイ」

 朝日さんが、書類をめくるのを緊張しながら見守っていると、不意に彼はあたしを見上げ、眉を寄せた。
 ――あ、何か、マズかった?
 すると、朝日さんは、書類をあたしに戻した。

「――書式等は問題無い。だが、内容が薄い。この先を見越した企画なんだから、もう少しアピールしろ」

 その固い口調と、言われた言葉に、あたしは視線を下げる。

 ――……そんなの、やった事無いんだから、わかんないわよ!

 けれど、それは、飲み込む。
 それは、あたしの事情であって、この仕事には関係ない。
「……承知しました」
 朝日さんに頭を下げ、自分の席に戻ると、高根さんからの資料をにらみつけるように見た。
 ――だって、何をどう伝えたら良いのか、わかんないもの。
 バーベキュー大会の日程や場所、高根さんが以前やった時の話。
 この前の打ち合わせで聞いたものを足しても、薄いと言うなら、何を付け足せと。
 頼みの綱の高根さんは、今週末まで会えないから、話も聞けないし。
 あたしは、やさぐれながら、他社や、他のイベント企画会社のホームページを次々と見ていった。

 結局、その日は改善する事ができず、翌日に持ち越し決定となってしまった。
 手元に書き殴ったメモを見やると、あたしはため息をつく。
 どうにも、想像がつかないし、もう、何を書いていいのかわからない。
 ――いっそのこと、リア充メンバーに尋ねてみる?
 あたしは、チラリと、数人とこの後の予定を話している小坂主任を見やり――軽く首を振る。
 いや、ダメだ。
 あのヒトは特殊だから。
 彼女の基準でものを考えたら――全部合コン扱いになってしまう。
 あたしは、ため息をつくと、立ち上がって帰り支度。
 煮詰まった頭で、結局、定時を少し過ぎて会社を後にした。
 朝日さんは、どこかの部に用でもあったのか、あたしが帰る時には、部屋にはいなかった。

 ――帰れば会えるのに、何だかさみしい。

 そう思ってしまう。

 ――もう、完全に、あたしの気持ちは彼のものだ。

 ……最初は、好きになったらどうしてくれる、とか、思っていたのにな。

 くすぐったい気持ちに、落ちていた気分は少しだけ上がったのか、自然と口元が上がる。

 ――……こんなに幸せな気持ちは――もしかしたら、初めてなのかもしれない。

 過去の男達を思い出し苦ってしまうが、朝日さんが、上書きするように気持ちをぶつけてくれるから、とらわれずにいられる。

 あたしは、駅の改札を通ると、電車が待つ間、夕飯のメニューを考える。
 それだけで、幸せを感じる。

 ――彼のために、何でもしてあげる。

 ……結局、あたしは、好きな人に与える事で、満たされる人間なのかもしれない。


 電車の中では、珍しく学生たちが盛り上がっているところに遭遇し、あたしは、居心地の悪さを感じてしまう。
 だが、これ見よがしに席を立つのも嫌だったので、仕方なしに外の景色を眺めていた。
 それでも、会話は聞こえてしまう。

 ――ええー!早く告っちゃえばいいのにー!
 ――今度、プール誘えばー⁉
 ――あたし達も、彼氏連れて行くからさー!

 内容は、簡単に想像できる恋愛相談。
 ――あの頃、あたしは、ひたすら雑用係で……舞子にあきれられていたな。
 それが、今、こんな風になっているなんて――想像もしていなかった。

 ――……あたしを、必要としてくれる人に、出会えたなんて……。
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