EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「美里?」

 支度を終えた朝日さんは、こちらにやって来ると、ひじきご飯を盛っているあたしの手元を眺める。
「え、あ、ご飯このくらいで良い?」
「――ああ」
 けれど、彼は視線をあたしの手元から逸らさない。
「何?」
「――いや、美味そうだな」
 あたしは、クスリ、と、笑い、彼に茶碗を手渡す。
「朝日さん、作った事無かった?」
「ああ。手間がかかりそうだったから」
「そんなでもないけどね。ハイ、お味噌汁」
 二人で夕飯をテーブルに並べ、二人で向かい合って箸をつける。
「やっぱり、美味い。……ホントに、料理上手だな、お前」
 あたしは、上機嫌で食べ進める朝日さんを、まじまじと見た。

 ――こんな風に言ってくれる(ひと)は、初めてだ。
 ……元カレ達は、ただ、当然のように、淡々と口に入れるだけ。
 下手すれば、外で済ませて来たと、手をつける事も無かった。

 すると、彼は、あたしを見やり、尋ねる。
「どうかしたか?」
「……ううん」
 ごまかすように首を振るが、彼は許してくれない。
「何かあるなら、言ってくれ」
 不安を隠さず、あたしに言う朝日さんに、うれしくなった。
「……ごめんなさい。……ちょっとだけ、元カレ達の事、思い出しちゃった」
「何かあったのか?」
「違うの。――ただ、朝日さんみたいに、美味しいとか言ってくれたヤツは、いなかったな、って……それだけ」
 本当に、大した事じゃない。
 そう続けると、彼は、眉を寄せる。
 ――やっぱり、気分良くないよね……。
「ご、ごめ……「違うぞ、美里」
「え?」
 あたしが謝ろうとすると、すぐに遮られる。
「――ムカついたのは、元カレ達に対してだ」
「え」
「……ちゃんと、感謝すべきだろう。自分のために作ってもらったんだから。――それに、こんなに美味いんだから、伝えるのは当然だ」
 あたしは、その言葉に固まった。

 ――……そんな風に考える人がいるなんて。

 朝日さんは、口元を上げると、続けた。

「まあ、もう、他のヤツには作るなよ。――オレだけだ」

「……うん。……朝日さんもね」

「当然だ。――もう、オレは、一生、お前のものなんだから」

 あたしは、目を丸くする。
 ――言った朝日さんも、照れたのか、再び食べ進めた。
 耳まで真っ赤になった顔は、見せたくないのか、うつむくように。
 その姿に、愛おしさがあふれる。


 ――……こんなに大事に想ってくれるのなら――今度こそ……。

 ――……今度こそは――……。


「……あたしも……」


 そう思えば、ポツリと、言葉がこぼれ落ちる。

「――え?」

 顔を上げ、驚いた表情を見せた朝日さんを見つめると、胸が詰まって、涙が自然と流れ出す。
 彼は、箸を置くと、大きな手で、それを拭った。

「美里?」

「――……あたしも……一生、朝日さんのものです」

「……美里……?」

 朝日さんは、じっとあたしを見つめる。

「――……良いように受け取るぞ……?」

「……うん。……あたし、朝日さんとだったら、大丈夫だと思う」

 その言葉は、本心だ。
 ――きっと、彼となら……今度こそ、幸せになれる。
 そんな未来を見たくなった。

「――……結婚、してくれるのか?」

 あたしは、コクリとうなづく。
 瞬間、彼は息をのんだ。
 そして、あたしの両手を、優しく包み込む。

「……ありがとう」

「――よろしくお願いします」

 あたしが、そう答えると、朝日さんは困ったように微笑(わら)う。
「――……また、敬語だぞ」
「時と場合、です」
 二人で笑い合う。

 こんな自然に気持ちが動く事があるなんて――自分でも信じられなかったけれど――……。

 けれど、もう、彼以上の人とは出会えないと思った。
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