EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
 目が覚めれば、端正な寝顔。
 そろそろ慣れそうなものなのに――未だに心臓は跳ね上がる。
 もう、抱き合うのも毎日の日課になってしまったようで、困るけれど、拒めない。
 あれから、二人でいろいろと話し合って、ひとまず、指輪だけは週末に買いに行く事にした。
 けれど、まずは、お互い知り合って間もないし、このまま同棲を続けて、時機を見て家族に紹介する話という事になったが――それには、いろいろとハードルがある。
 少しは事情を知っているから、朝日さんは、あせらなくて良いと言ってくれたけれど。

 ――だが、家族になる以上、知らぬ振りはできないからな。

 その言葉に、うなづきはしたが、正直気が重かった。

 今まで逃げていたものと向き合う覚悟は――まだ、できなかった。


 会社では、今まで通り。
 仕事は仕事で――朝日さんは、あくまで上司だった。
 出勤すると、あたしは、仕方なく、”部長”の朝日さんに頼る事にした。
「黒川部長、少々よろしいでしょうか」
「どうした、白山?」
 あたしは、むずかゆくなる胸を押さえながらも、持っていた書類を差し出した。
 それは、高根さんからもらった資料たち。
「申し訳ありません。――企画書に求められているものを、お伺いしたいのですが」
 朝日さんは、あたしをイスに座ったまま見上げると、うなづいた。
「わかった。――今なら、まだ時間に余裕がある」
 そう言って、書類をめくり、続けた。
「先方のアピールポイントが抜けていたし、今回の開催で、以降に見込まれる需要の予測や、来期以降の予算の額も欲しい」
 言い出したらキリがないのか、彼は次から次へとダメ出しをしてくれ、終わる頃には、あたしの気分は急降下だった。

 ――いちいち、細かいわね、ホント!

「……できるか、白山?」
「やります。ご助言、ありがとうございました」
 あたしは、書類を返してもらうと、ズンズンと、自分の席に大股で戻り、すぐにパソコンをにらみつけたのだった。


 昼前に、ようやく体裁が整えられ、外出中の朝日さんの机の上にプリントアウトしたものを置いた。
 ――コレでダメなら、アンタ、作ってよね!
 思わずボヤきたくなるが、心の奥で留めておく。
 ようやく一息つけたので、ホワイトボードを見やれば、ヘルプマークがついていた。
 相変わらずの小坂主任の元に向かうと、あたしは声をかける。
「主任、何かお手伝いしましょうか」
「あ、お願いー!新規のトコなんだけど、社長に、相手先の詳しい資料作ってくれって言われてー!」
 名刺を何枚も差し出され、あたしは反射でそれらを受け取る。
 見るともなしに見やれば、会社は全国に渡っていた。
 ――もしかして、コレって。
 そう思い、肩書を見ると、やはりすべてイベント企画会社だ。
「……コレって、ライフプレジャー社からの紹介ですか……?」
 思わず尋ねると、主任は顔を上げてうなづく。
「そうなのよ!ホラ、あなたの企画、今回こっちだけじゃない」
「それは、初の試みなので――まずは、本社だけでと」
「まあ、それはわかるけど。で、社長ってば、あちらに紹介されたところ、すぐに回って来たらしいのね。ホラ、今週、いなかったでしょ」
 ――何で、そんなにフットワークが軽いんだ、ウチの社長は。
 あたしは、思わず苦笑いを浮かべる。
「で、こっちに仕事が回ってきたんだけど――あたし、こういうの、苦手なのよね」

 ――じゃあ、アンタは、何なら得意なのよ。

 心の中で突っ込むが、あたしは、うなづいて名刺を見た。

「――すべてでしょうか」
「お願いできるかしら⁉」
 彼女は両手を合わせ、あたしに笑いかける。
 こんな風に必要とされるのは――都合良く使われているような気もするが、今のあたしの心には、そんな暗い感情は鳴りを潜めていた。
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