EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「お、お疲れ様です、白山さん」
「お疲れ様です」
 あたしは、彼の隣に座ると、二人で頭を下げ合う。
 どうやら、コースにしたようなので、次から次へと料理が運ばれてきていた。
「あ、何飲みます?」
 高根さんは、メニューを渡そうとするが、あたしは軽くそれを止めた。
「ビールで良いですので」
「あ、ハ、ハイ」
 彼はうなづくと、注文を集めている社長にビール二つ、と、声をかける。
 返事を聞くと、再びあたしに顔を向けた。
「すみません。急な話だったでしょう?」
 申し訳なさそうに彼が言うので、あたしは苦笑いで首を振った。
「いえ。――ちょうど良かったので」
「え?」
 キョトンとしている高根さんに、あたしは、持っていたバッグから、ファイルを取り出した。
「申し訳ありません。時間外なのですが……少し、企画でお伺いしたい箇所があって」
 すると、彼も、表情を変える。
「構いません。今週、ご連絡もできなかったので、気にはなっていたんです」
「じゃあ――」
 届いたビールで乾杯すると、あたし達は、二人、別世界のように話を始める。
 手元のファイルは、他の人間には見えないように、ヒザの上に乗せて、時折確認したり、メモをしたり。
 高根さんは、スマホで、イベントで使った場所の写真などを見せてくれた。
 どうやら、はた目には、二人の世界で盛り上がっているように見えたらしく、あたし達は隅でひらすら仕事の話を続けていたのだった。


 そして、二時間程でお開きになり、小坂主任達は二次会に向かう事になったようだ。
 すっかり出来上がっていたが、放っておこう。
「し、白山さん。お帰りなら、送ります」
「――ありがとうございます。でも、高根さん、二次会は……」
「ああ、僕は最初から数に入ってないので」
「え?」
 どういう事?
 まさか、良い社会人が仲間はずれとかなんて……。
 あたしが、気まずい表情を見せたのに気づいたのか、高根さんは苦笑いで首を振った。
「違います、違います。――まあ、僕の事情なんで」
「……は、はあ……」
 前回の事もあり、あたしは、素直に駅までの道のりを、高根さんと一緒に歩く事にした。
 その間も、彼の仕事の話は止まらず、結局、最寄り駅で降りるまでも勉強だった。
 改札を抜け、大通り方面の出口に向かう彼は、恐縮したように頭を下げる。
「すみません。……何か、ずっと、仕事の話で……」
「いえ、構いません。勉強になりました。ありがとうございます」
 すると、高根さんは、慌てて首を振った。
「いえ!僕の方こそ……楽しかったので」
「なら、良かったです」
 あたしは、クスリ、と、笑う。
 こんなに、仕事に夢中になれる人がいるなんて。
 すると、彼は、少しだけ気まずそうに言った。
「……あの……本当に、ここで大丈夫ですか?」
「え?」
「いえ、あの……もう遅いんで……何なら、ご自宅まで送りますけど……」
「あ、いえ、大丈夫です。本当に近くなので……。今日は、本当にありがとうございました」
 まさか、裏手の高層マンションで同棲しているとは言えず。
 ごまかすように笑い、あたしは、連絡通路へと歩き出した。
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