EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「お帰り、美里」

「あ、朝日さん!」

 マンションの入り口で立っていた彼を見て、あたしは、思わず辺りを見回してしまった。
 まさか、会社の人間がいるとは思わないけど。
 すると、彼はあたしの手を取り、急ぐように中に入る。
 エレベーターを降りて、部屋の玄関のドアを急かすように開けると、あたしは、力任せに引き寄せられた。
「あ、朝日さん?」
「――酒とタバコの臭いがする」
「え、あ。……だって、居酒屋だもの」
「どのくらい飲んだ?」
「ビ、ビール一杯だけ」
 言いながら、朝日さんはあたしの腕をつかむと、バスルームに連れて行く。
「朝日さんってば!」
「――シャワー、浴びてこい」
「……っ……」
 頑なな口調に、思わず口ごもってしまった。
 ――何で、そんな機嫌悪いのよ。
 そう思いながらも、言われるままに服を脱いでシャワーを浴びた。
 だが、上がる段階で、着替えが無い事に気づき、あたしは仕方なくバスタオルを身体に巻き付ける。
 そして、そおっとバスルームから出ると、朝日さんは、持っていたビール缶をシンクに投げるように置く。

 ――あれ。

「……あ、朝日さんも、飲んでたの?」
 あたしの問いかけにも答えず、彼はこちらに来ると、すぐに抱き締める。
「……うるさい、悪いか」
「……べ、別に。……酔ってる?」
「たかが一本で酔うか」
 言いながら、朝日さんは、あたしを離すと、すぐに抱き上げた。
「ちょっ……!き、着替えさせて!持って行ってなかったんだから」
「必要無いだろ」
「あります!」
 ――もう、コレは、いつもの流れじゃない。
 あたしは、思わず身をよじるが、彼の腕に止められてしまう。
「――今日は、覚悟しておけよ」
「え、ま……」
 待って、と、言いたかったけれど、あたしを熱っぽく見つめる彼の視線に、言葉は逆戻りする。
 そして、ベッドに放り投げられると、すぐに組み伏せられ、唇が重なる。
 アルコールが交じり合い、クラクラする。
「……待ってる間、気が気じゃなかった」
 すると、不意にこぼれた彼の言葉に、あたしは目を丸くする。
「……え、朝日さん……また、ヤキモチ……?」
「言っただろう。重い男だって」
「で、でも、高根さんとは、ホントに仕事の話しか……」
 言い終える前に、また唇が重なった。
 そして、離れると、至近距離の端正な顔は、ふてくされながら続けるのだ。

「――他の男の名前なんて、言わせるか」

「朝日さん……」

 言い終えると、彼は、宣言通り、酸欠寸前になるまで深くキスを続け、アルコールでふわふわしたあたしの身体を、朝になっても離してはくれなかった――。
< 130 / 195 >

この作品をシェア

pagetop