EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「――……美里、もう一度聞いて良いかしらね」

「……だ、だから……その……け、結婚、する事に……」

 早番だった舞子にメッセージを返すと、アパートに来い、と、問答無用な返事が来たので、朝日さんと二人で向かった。
 玄関先で待ち構えていた舞子は、腕を組み、あたしと朝日さんを交互ににらむ。
 すると、休日だった秋成さんが、気まずそうに間に入ってきた。
「舞子、ひとまず、中に入ってもらおう」
「……どうぞ」
 渋々中に入れられ、あたし達は、部屋のテーブルを挟み、舞子と対峙した。
「――美里、アンタ、この前、別れたばっかりよね」
「……そ、そうだけど……」
「ひと月も経ってないわよね」
「……うん……」
 だんだんと声が小さくなってしまう。
 舞子が心配してくれて、この態度だとはわかっているけれど。
 あたしは、うつむきそうな顔を上げ、言った。
「……た、確かに、付き合った期間は短いけど……朝日さんだったら、大丈夫だと思ったの」
「美里」
 言い切るあたしを、舞子はじっと見つめてくる。
「――お話中すみません。……まともに自己紹介してなかったですね」
「え」
 すると、朝日さんが割って入ってきて、あたしは戸惑う。
 初手から舞子とにらみ合っていたが、大丈夫なのか。
 その不安に気づいたのか、彼は苦笑いであたしを見やった。
 そして、上着の内ポケットから、名刺入れを取り出し、一枚、舞子に差し出した。

「鈴原冷食総務部部長、黒川朝日と申します。――美里さんとは、結婚前提に同棲しています」

 舞子はそれを両手で受け取ると、彼を見上げた。
「……中江(なかえ)舞子です。美里とは、中学一年からの付き合いです」
 軽く会釈すると、朝日さんは続ける。
「――急な話で、ご心配になるのはわかりますが――」
 だが、すぐに舞子は手をかざして、それを遮った。
「ま、舞子!」
「――胡散臭いんで、敬語、やめてもえらえないかしら?そもそも、アンタ、初対面のアタシに、結構な暴言吐いたわよね」
「「舞子!」」
 さすがに、秋成さんもあせったのか、あたしと同時に舞子を止めようとした。
 けれど、朝日さんは、あたしを片手で止めると、大きく息を吐いた。
 あたしと秋成さんは、緊張気味に二人を見つめる。
 どう転んでも、仲良しになりたいという雰囲気ではないのだから。

「――わかった。ただ、キミと美里が同い年なら、オレは七つ上になるな」

「年齢でマウント取らないでよ、オジサン(・・・・)

「舞子!」

 あたしは、ギクリとして、隣の朝日さんを見やる。
 すると、彼は、少々引きつった表情で、ニッコリと笑った。
「ああ、やっぱり友人なんだな。言うコトが、美里と同じだ」
「舞子、そろそろ、突っかかるのはやめような」
 見るに見かねて、今まで後ろで立って様子をうかがっていた秋成さんが、舞子の隣に腰を下ろす。
 そして、舞子の頭をなだめるように撫でた。
「……ちょっと、アキ、何のつもりよ」
「おれだって三十二歳。黒川さんほどじゃないけど、舞子よりオジサンだろ?」
「……うるさい」
 微笑む秋成さんに、舞子は拗ねたようにそっぽを向いた。
「ああ、申し遅れました。舞子の婚約者の、飯山秋成です」
 そんな舞子を、クスリ、と、見やると、秋成さんは自己紹介した。
「すみませんね、舞子、美里ちゃんの事になると、過保護になっちゃうんで」
「――いえ、覚悟の上ですから」
 どうやら、秋成さんには、親近感が持てたのか、朝日さんの表情は和らいだ。
「と、とにかく……舞子が心配してくれるのは、うれしいけど……今回だけは、あたし、自分の気持ちを信じたいの」
「美里」
 舞子は、気まずそうにあたしを見ると、そっと、あたしの手を取った。

「――……アンタ……家のコトは……?」

「……ちょっとだけ、ね……」

 たぶん、舞子が心配しているのは――あたしの家の事情だ。
「……言える時になったら、自分で言うから……」
「……わかった」
 二人で視線を交わす。
 ――それを、朝日さんと秋成さんは、少しだけ不思議そうに見守っていた。
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