EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー

fight.29

 翌日、高根さんから朝一番に連絡をもらい、明日の打ち合わせが急きょ決まった。
 この先の計画やら、詳しい事を今日中に資料として渡してくれるそうだ。
 朝日さんにそう伝えれば、少しだけ眉を寄せられたが、これは、あたしの仕事だ。
 今日は、先週小坂主任に投げられた仕事に一日取り掛かり、どうにか、形になったものを返す。
「あら、ありがと!ホント、助かるわー」
 どこかのおばちゃんのような口調で言うと、彼女はすぐに内線を入れ、いそいそと社長の元に向かっていった。
 そんな風に、以前のような平穏な日々が続くが、部屋に帰れば朝日さんに毎日のように愛される。
 でも、それは――幸せな日々で。

 ――この生活が続くのが結婚なら、あたしは、今度こそ、手に入れたかった。



「美里ちゃん」

「――え」

 週末になり、駅の改札で不意に声をかけられ振り返れば、新井さんが駆け足でやってきた。
「お、お久しぶりです。……その節は……」
「ああ、大丈夫だった?あれから……」
「ハイ。……朝日さんが、助けてくれたので……」
 あたしがうなづくと、彼は、おや、という表情(かお)を見せた。
「――……もしかして、朝日と付き合ってる?」
「え、あ、あの……」
 どう答えようかと悩む間もなく、新井さんは、満面の笑顔になった。
「そう!良かった!」
「え」
「アイツ、一時期、ホント、うるさかったからさ」
「――え?」
 何の事かと目を丸くすると、新井さんは、その大きな身体をかがめ、あたしに耳打ちした。
「キミと一緒に住めるように持ち込めたのは良いけど、手を出さない自信が無い。どうしたら良いって、そればっかりでさ!」
「――え」
 瞬間、顔中熱くなる。
 ……一体、何を相談しているんだ、朝日さんは!
 そんなあたしを見やると、新井さんは笑った。
「まあ、何かあったら、ボクに言って。親友として、クギ刺してやるからさ」
「あ、ありがとうございます……」
 まさか、もう、婚約してるとは言えず、あたしは、あいまいにうなづく。
 彼はニコニコしながら、手を振って不動産屋へと戻って行った。
 ――新井さんには、最初から、面倒と心配をかけていたから……朝日さん、婚約の事、伝えていたかと思ったのにな。
 そんな事を考えながら、マンションへと向かう。
 すると、どこからか視線を感じ、あたしは振り返った。

 ――……え?

 それは、何だか――背筋が寒くなるような……そんな……憎悪や悪意といった類のようなものの気がした。
 けれど、その主の姿は見えず、あたしは、かすかに首を振ると、マンションに入って行った。
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