EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「白山」

 すると、不意に声をかけられ、振り返る。

「部長」

 ラフなパーカーとデニムに身を包んだ朝日さんが、あたしの元にやって来た。
 ――まったく、何着ても様になるって、ズルい。
「……何だ」
「いえ。――何か御用でしょうか」
「……いや、まずは成功と見ていいな」
「……まだ、始まったばかりですので」
 二人で並んで話していても、他人からは仕事の話をしているように見えるらしい。
 視線を受ける事もなく、あたし達は会話を続ける。
「……お前は参加しないのか」
「一応、監視係も兼ねているので」
「――少しくらい良いんじゃないのか?」
「いえ。担当ですので」

「ちょっと、白山さんー!」 

 すると、すぐ近くの小坂主任がいる席から呼ばれる。
 あたしは、そこまで駆け寄ると、尋ねた。
 何か、トラブルでもあったか。
 構えていると、主任はふてくされたように言った。
「ねえ、ココ、お肉も野菜も少なくない?」
「……は?」
 一応、全席、均等に置いておいたはずなんだけど。
「ああ、ゴメン、ゴメン。オレ達、先に食っちゃってて」
「ええー⁉」
 前にいた三人の男性が、困ったように笑って言う。
 どうやら、フライングで焼いていたようで、手持ちの紙皿に肉が乗せられていた。
 小坂主任達は、各班の男性陣を物色しながら回っていたようで、一番最後に場所を決めたらしく、あたしにしてみれば、どっちもどっち。
「じゃあ、追加かけますので、お待ちください」
 あたしは、そう言うと、すぐに吉浦さんを探す。
 ここの管理責任は、彼にあるのだから。
 そして、数メートル先にその姿を見つけると、あたしは駆け寄った。
「すみません、肉と野菜、追加可能ですか」
「ああ、ハイ。――あ、でも、まだ分けてないかも」
 吉浦さんは、そう言って、ロッジに視線を向ける。
 すべて、そこで準備しているようだ。
 あたしは、うなづくとすぐに向かった。

「すみません、肉と野菜、追加お願いしたいんですけど」

 そう言って、中に入ると、数人の男性がこちらに一気に視線を向けた。
 思わずたじろいでしまうが、そういう訳にはいかない。

「ああ、ハイ。おい、野菜のストック出してくれ!」

「肉はどのくらいいるの?」

 慌てて品物を出している彼等の元に駆け寄り、記憶をたどって数を伝えると、段ボールに次から次へと入れられた。
 あたしは、それを、力任せに持ち上げる。
「ありがとうございます!」
「あ、持って行くよ⁉」
「いえ!思ったより、消費するペース早いかもしれないので、準備お願いします!」
 段ボール箱を抱え直すと、あたしは、足元に注意しながら、小坂主任の元に向かった。
 すると、その途中、箱が目の前から消える。
「……朝日さん」
 思わずこぼれてしまうが、今は、周りに誰もいない。
「……あのな、女がこんな重い物持ち歩くな」
 言いながら、ヒョイ、と、持ち直すと、彼は先に足を進める。
「で、でも」
「――ケガしたらどうする」
「しません!」
 子ども扱いされているようで、あたしは、ふてくされる。
「……あのなぁ……」
 苦りながら見下ろしてくる朝日さんを見ず、隣を歩く。
「――大事だから、言ってるんだが」
「……バカ、こんなトコで言わないでよ」
「言わなきゃわからないだろうが」
「……もうっ!」
 小声のやり取りは、席に到着する前に終わる。
「あ、来た来た!ねえ、白山さんも一緒にやらないの?」
「いえ、あたしは――」
「ああ、少し余裕できたから、大丈夫ですよ」
 断る寸前、後ろから声がかけられ、振り返ると、笑顔の高根さんがいた。
「ホラホラ!せっかくだし、ね⁉」
 あたしは、彼を見やり――そして、その向こうにいる、朝日さんを見やった。
 二人でうなづくので、あたしは、心の中でため息をつくと、うなづいたのだった。
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