EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
fight.30
暗くなった周囲を、数メートルおきの街灯が照らす。
あたしは、マンションの明かりを視界に入れ、無意識に息を吐いた。
別に、何があった訳じゃないのにな。
思わず苦笑いするが、すぐに、それは硬直してしまった。
「……朝日さん」
マンションの入り口で、モデルのような立ち姿の彼は、あたしを見つけると、ホッとしたように表情を崩した。
「お帰り、遅かったな」
「第二陣は終了八時だもの」
朝日さんは、あたしのバッグを持つと、手を取った。
「――お疲れ」
「……うん」
それだけの会話。でも、胸は満たされる。
部屋に入ると、バッグは明日も使うので、そのまま玄関に置く。
着替えだけ取り替えれば、後は引き続き入れたままで良い。
支度を終えると、あたしは、リビングのソファに座り込んだ。
「――美里、夕飯は」
「あ、ごめんなさい、忘れてた。……何だか、食欲無くて」
「大丈夫か?」
「うん。……プレッシャーとかもあるんだけど……正直、人が食べているトコ見てたら、お腹いっぱいな感じになっちゃって」
あたしの答えに、朝日さんは苦笑いした。
「お前は食べてないのに」
「仕方ないでしょ」
お互いに笑い合うと、彼は立ち上がった。
「オレも、まだだから、簡単なものにしようか」
「え、先に食べてても良かったのに」
あたしも立ち上がろうとすると、彼は両肩を押さえて、ストン、と、ソファに逆戻りさせた。
「――言っただろ。……もう、一人で食べるのは、味気ないんだって」
「――……あ……」
そうだった。
あの時の彼を思い出し、あたしはうなづいた。
「お前は休んでいろ。オレがやるから」
「で、でも」
「明日もあるしな」
だが、朝日さんは、思い出したようにあたしにキスをした。
「――でも、やっぱり、虫よけはしたいんだが」
「……ぜっっったいに、ダメ‼‼」
にらむあたしに、彼は苦笑いでうなづいた。
翌朝も昨日と同じ時間に出発。
同じような流れで、キャンプ場へ向かった。
今日は、本社エリアにある工場の人達がメイン。
名前は聞いた事があるが、顔は知らない人ばかりだ。
朝日さんは、一応、第一陣に参加していたが、工場の女性陣に絡まれて、遠くに行ってしまった。
それを見やりながら、あたしは、昨日のように、レジャーの際の監視員と、バーベキューのヘルプに入っていた。
「ああ、こっちも追加良いですかー!」
「ハ、ハイ!」
あたしは、あちらこちらに走り周り、終了する頃には疲労困憊だった。
――さすがに、連チャンはキツイわ。
心の中でボヤいてはみるが、仕方ない。
「白山さん、こっちは僕達で見ますから」
「あ、ありがとうございます」
すると、高根さんが慌てて数人を連れて助けに入ってくれる。
彼等も彼等で忙しいだろうに。
――でも、こんな裏方の方が、あたしには性に合っているのかもしれない。
第二陣が終了し、昨日よりも少々遅く解散となった。
あたしは最後まで見届けると、ライフプレジャー社のみなさんに挨拶をする。
「ありがとうございました。――こんな風に充実できるとは、想像できませんでした。みなさんのおかげです」
「いえいえ、こちらこそ。ご利用ありがとうございました」
社長の吉浦さんが、笑いながら言う。
あたしも、それにつられて、笑みが浮かんだ。
「ああ、そう言えば、この前、社長さんに全国の同業他社を紹介したんですが、反応はいかがでした?」
吉浦さんがそう尋ねてきたので、あたしは、うなづいた。
「既に、会社概要や扱ったイベントなどの資料を、社長に渡しております。おそらく、全国各支社で、お願いする事になるかと」
「ホントですか!ありがとうございます!ウチで紹介できるのは、やっぱり、同じような規模のところしか無いんで。――でも、実績はありますから」
「ええ。当社社長は、新しいもの好きなので、目新しいものを出していただければ、ほぼ採用されるのではないかと思います」
「ありがとうございます、伝えておきます」
あたしは、頭を下げ、彼等と別れる。
高根さんの視線が気になったが、ニコリ、と返すと、気まずそうに微笑んで返された。
――大丈夫。
あたしには、もう、朝日さんしかいないんだから。
――……そして、彼にも……あたししかいない。
夜風は、時折冷えるくらいだったけれど、熱がこもっていた体内にはちょうど良かった。
今週末は、今日明日の代休で、木曜から休みに入る。
――そしたら、朝日さんのために、いろいろしてあげたいな。
ずっと我慢させちゃったから……ちょっとは、好きにさせてあげよう。
あたしの浮かれた頭は、そんな事しか考えられなかった。
あたしは、マンションの明かりを視界に入れ、無意識に息を吐いた。
別に、何があった訳じゃないのにな。
思わず苦笑いするが、すぐに、それは硬直してしまった。
「……朝日さん」
マンションの入り口で、モデルのような立ち姿の彼は、あたしを見つけると、ホッとしたように表情を崩した。
「お帰り、遅かったな」
「第二陣は終了八時だもの」
朝日さんは、あたしのバッグを持つと、手を取った。
「――お疲れ」
「……うん」
それだけの会話。でも、胸は満たされる。
部屋に入ると、バッグは明日も使うので、そのまま玄関に置く。
着替えだけ取り替えれば、後は引き続き入れたままで良い。
支度を終えると、あたしは、リビングのソファに座り込んだ。
「――美里、夕飯は」
「あ、ごめんなさい、忘れてた。……何だか、食欲無くて」
「大丈夫か?」
「うん。……プレッシャーとかもあるんだけど……正直、人が食べているトコ見てたら、お腹いっぱいな感じになっちゃって」
あたしの答えに、朝日さんは苦笑いした。
「お前は食べてないのに」
「仕方ないでしょ」
お互いに笑い合うと、彼は立ち上がった。
「オレも、まだだから、簡単なものにしようか」
「え、先に食べてても良かったのに」
あたしも立ち上がろうとすると、彼は両肩を押さえて、ストン、と、ソファに逆戻りさせた。
「――言っただろ。……もう、一人で食べるのは、味気ないんだって」
「――……あ……」
そうだった。
あの時の彼を思い出し、あたしはうなづいた。
「お前は休んでいろ。オレがやるから」
「で、でも」
「明日もあるしな」
だが、朝日さんは、思い出したようにあたしにキスをした。
「――でも、やっぱり、虫よけはしたいんだが」
「……ぜっっったいに、ダメ‼‼」
にらむあたしに、彼は苦笑いでうなづいた。
翌朝も昨日と同じ時間に出発。
同じような流れで、キャンプ場へ向かった。
今日は、本社エリアにある工場の人達がメイン。
名前は聞いた事があるが、顔は知らない人ばかりだ。
朝日さんは、一応、第一陣に参加していたが、工場の女性陣に絡まれて、遠くに行ってしまった。
それを見やりながら、あたしは、昨日のように、レジャーの際の監視員と、バーベキューのヘルプに入っていた。
「ああ、こっちも追加良いですかー!」
「ハ、ハイ!」
あたしは、あちらこちらに走り周り、終了する頃には疲労困憊だった。
――さすがに、連チャンはキツイわ。
心の中でボヤいてはみるが、仕方ない。
「白山さん、こっちは僕達で見ますから」
「あ、ありがとうございます」
すると、高根さんが慌てて数人を連れて助けに入ってくれる。
彼等も彼等で忙しいだろうに。
――でも、こんな裏方の方が、あたしには性に合っているのかもしれない。
第二陣が終了し、昨日よりも少々遅く解散となった。
あたしは最後まで見届けると、ライフプレジャー社のみなさんに挨拶をする。
「ありがとうございました。――こんな風に充実できるとは、想像できませんでした。みなさんのおかげです」
「いえいえ、こちらこそ。ご利用ありがとうございました」
社長の吉浦さんが、笑いながら言う。
あたしも、それにつられて、笑みが浮かんだ。
「ああ、そう言えば、この前、社長さんに全国の同業他社を紹介したんですが、反応はいかがでした?」
吉浦さんがそう尋ねてきたので、あたしは、うなづいた。
「既に、会社概要や扱ったイベントなどの資料を、社長に渡しております。おそらく、全国各支社で、お願いする事になるかと」
「ホントですか!ありがとうございます!ウチで紹介できるのは、やっぱり、同じような規模のところしか無いんで。――でも、実績はありますから」
「ええ。当社社長は、新しいもの好きなので、目新しいものを出していただければ、ほぼ採用されるのではないかと思います」
「ありがとうございます、伝えておきます」
あたしは、頭を下げ、彼等と別れる。
高根さんの視線が気になったが、ニコリ、と返すと、気まずそうに微笑んで返された。
――大丈夫。
あたしには、もう、朝日さんしかいないんだから。
――……そして、彼にも……あたししかいない。
夜風は、時折冷えるくらいだったけれど、熱がこもっていた体内にはちょうど良かった。
今週末は、今日明日の代休で、木曜から休みに入る。
――そしたら、朝日さんのために、いろいろしてあげたいな。
ずっと我慢させちゃったから……ちょっとは、好きにさせてあげよう。
あたしの浮かれた頭は、そんな事しか考えられなかった。