EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
階段をどうにか下りると、総務部の前で、部屋から出てきた朝日さんに出くわした。
さっきの今で気まずくなってしまい、視線を落として頭を下げる。
「――白山、終わったのか」
「……ハ……ハイ……」
あたしは、抱えていたメモを握りしめ、震える身体を隠すように彼の脇を通り過ぎようとしたが、すぐに腕を掴まれた。
「――何があった」
低い声で問いかけられ、あたしは首を振った。
「……何も。ちゃんと、ホームページに関する事をうかがってきましたので、忘れないうちに終わらせます」
そう、仕事を盾にする。
朝日さんは、眉を寄せると、了解、とだけ言って、エレベーターに乗った。
それを見送ると、にじんできそうな涙を、すぐに指で拭き去り、あたしは自分の席に着く。
そして、うっぷんを晴らすように、仕事続けた。
しばらく仕事に夢中になり、どうにか落ち着きを取り戻すと、いつも通りの時間に帰る事ができた。
けれど、マンションに帰ると、ぞわり、と、感触がよみがえる。
――……朝日さん……早く帰って来てくれないかな……。
一人では、忘れる事なんてできない。
……何で、あんなヤツが、のうのうと仕事してんのよ!
手癖の悪さが有名なら、何で、放っておかれるの!
あたしは、震える身体をどうにか動かし、夕飯を作り始める。
とにかく、何かに夢中になった方が、忘れられそうで。
いつもよりも手をかけて、夕飯を作った。
朝日さんが帰って来たのは、それから一時間ほどしてから。
先に食べる気にもなれず、あたしは、リビングのソファにヒザを抱えて彼を待っていた。
「――ただいま……美里?」
「……おかえり、なさい……」
ポツリと言うと、あたしは立ち上がる。
すると、目の前には、まだ上着も脱いでいない朝日さんがいた。
「……朝日、さん……?」
だが、言うが遅い、きつく抱き締められ、あたしは尋ねる。
「ど、どうしたの……?」
「――……安心しろ、ちゃんと、人事監査部に報告上げたから」
「……え?」
「オレの目は節穴じゃない。広報部長に言って、直接本人を問い詰めてもらった」
「――え??」
あたしがキョトンとしていると、朝日さんは、あたしを抱き上げ、ソファに座った。
「あ、朝日さん?」
「――あの男、三年目なんだが……まあ、技術はあるのに、手癖が悪すぎて、パーティションがあるのを良い事に、女性社員にやりたい放題だったらしい」
「……え」
「それで、いつも注意していたそうなんだが……今回は、被害者が、お前だったからな。さすがに、オレも口頭注意じゃ納得できないと、掛け合った」
朝日さんは、憤りながらも続けた。
「まあ、向こうも正直持て余していたんだろう。すぐに、報告上げたから、明日には査問だろうな」
「……朝日さん……」
驚きを隠せないあたしに、彼は口元を上げた。
「――言っただろう。……守るって」
「……うん……」
あたしは、彼に抱き着いてうなづく。
「――……本当に……ありがと……」
「……悪かったな。……つらかっただろう」
そう言って、彼は、きつく抱き締めてくれる。
もうそれだけで――上書きされた気がする。
「……でも……上書き、ちゃんと、してくれる……?」
あたしがそう言って見上げると、朝日さんは、キスで返してくれた。
「当然だ。――明日、休みにしようか?」
「それはダメ。どっちみち、週末に代休入ってるし」
みんなにはレジャーでも、あたしだけは仕事の一環なのだ。
出勤扱いで報告されている。
「じゃあ、今日は、手加減してやるから」
「――ホントに?」
「……ああ、まあ、善処する、ってコトで」
苦笑いで返す彼に、あたしは、クスリ、と、笑って返した。
さっきの今で気まずくなってしまい、視線を落として頭を下げる。
「――白山、終わったのか」
「……ハ……ハイ……」
あたしは、抱えていたメモを握りしめ、震える身体を隠すように彼の脇を通り過ぎようとしたが、すぐに腕を掴まれた。
「――何があった」
低い声で問いかけられ、あたしは首を振った。
「……何も。ちゃんと、ホームページに関する事をうかがってきましたので、忘れないうちに終わらせます」
そう、仕事を盾にする。
朝日さんは、眉を寄せると、了解、とだけ言って、エレベーターに乗った。
それを見送ると、にじんできそうな涙を、すぐに指で拭き去り、あたしは自分の席に着く。
そして、うっぷんを晴らすように、仕事続けた。
しばらく仕事に夢中になり、どうにか落ち着きを取り戻すと、いつも通りの時間に帰る事ができた。
けれど、マンションに帰ると、ぞわり、と、感触がよみがえる。
――……朝日さん……早く帰って来てくれないかな……。
一人では、忘れる事なんてできない。
……何で、あんなヤツが、のうのうと仕事してんのよ!
手癖の悪さが有名なら、何で、放っておかれるの!
あたしは、震える身体をどうにか動かし、夕飯を作り始める。
とにかく、何かに夢中になった方が、忘れられそうで。
いつもよりも手をかけて、夕飯を作った。
朝日さんが帰って来たのは、それから一時間ほどしてから。
先に食べる気にもなれず、あたしは、リビングのソファにヒザを抱えて彼を待っていた。
「――ただいま……美里?」
「……おかえり、なさい……」
ポツリと言うと、あたしは立ち上がる。
すると、目の前には、まだ上着も脱いでいない朝日さんがいた。
「……朝日、さん……?」
だが、言うが遅い、きつく抱き締められ、あたしは尋ねる。
「ど、どうしたの……?」
「――……安心しろ、ちゃんと、人事監査部に報告上げたから」
「……え?」
「オレの目は節穴じゃない。広報部長に言って、直接本人を問い詰めてもらった」
「――え??」
あたしがキョトンとしていると、朝日さんは、あたしを抱き上げ、ソファに座った。
「あ、朝日さん?」
「――あの男、三年目なんだが……まあ、技術はあるのに、手癖が悪すぎて、パーティションがあるのを良い事に、女性社員にやりたい放題だったらしい」
「……え」
「それで、いつも注意していたそうなんだが……今回は、被害者が、お前だったからな。さすがに、オレも口頭注意じゃ納得できないと、掛け合った」
朝日さんは、憤りながらも続けた。
「まあ、向こうも正直持て余していたんだろう。すぐに、報告上げたから、明日には査問だろうな」
「……朝日さん……」
驚きを隠せないあたしに、彼は口元を上げた。
「――言っただろう。……守るって」
「……うん……」
あたしは、彼に抱き着いてうなづく。
「――……本当に……ありがと……」
「……悪かったな。……つらかっただろう」
そう言って、彼は、きつく抱き締めてくれる。
もうそれだけで――上書きされた気がする。
「……でも……上書き、ちゃんと、してくれる……?」
あたしがそう言って見上げると、朝日さんは、キスで返してくれた。
「当然だ。――明日、休みにしようか?」
「それはダメ。どっちみち、週末に代休入ってるし」
みんなにはレジャーでも、あたしだけは仕事の一環なのだ。
出勤扱いで報告されている。
「じゃあ、今日は、手加減してやるから」
「――ホントに?」
「……ああ、まあ、善処する、ってコトで」
苦笑いで返す彼に、あたしは、クスリ、と、笑って返した。