EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
すぐに駅までたどり着いたあたしは、待合室に入って一旦荷物を置いて、ソファに腰を下ろした。
――もう、何て災難。
会社以外で上司に会うなんて。
あたしは、チラリと壁にかかっていた時計を見上げる。
もう、六時を過ぎている。
舞子には、部屋を探してくると伝えてあるが、今日は秋成さんが部屋に泊まるそうだから、戻らないつもりだ。
あたしは、バッグを持って立ち上がる。
ひとまず……今日明日はネカフェだ。
そう考え、駅の通路を通り、反対側に出て数メートル。
チェーン店の看板が並ぶ中、その店はあった。
六階建ての細長いビル全部がネットカフェだ。
だんだん暗くなってくると、駅前は客層が変わってくるから、早目に入ってしまおう。
そう思い足を踏み出した途端、左腕をつかまれた。
「――え」
もう、三回目ともなると、その手の感触でわかってしまう。
「――……黒川部長?」
「……お……前はっ……!危機感ってモンは無いのかっ……!」
だが、以前と同じように怒られ、あたしはムッとして部長の手を振り払う。
今はプライベートだ。
上司部下は関係ない。
「――別に、良いでしょ。……部長の生活を脅かすつもりはありませんから、ご安心くださいな」
あたしは、そう言って、部長をにらみ上げる。
視線が近いと感じるのは、ヒールの高い靴を履いていたせいか。
部長は、少々、息切れをしながら、あたしをにらむように見下ろす。
「――……とりあえず、戻れ」
「は?」
「……だからっ……あのマンションに住んだって、別に、オレはかまわない。ただの入居者だしな」
――だから、何だ。
あたしは、アンタの許可をもらってまで、住みたい訳じゃないわよ。
心の中で毒づきながら、首を振る。
「――大丈夫です。――身の丈に合った住まいを見つけますので」
「それまで、ネットカフェで寝泊まりする気か?妙齢の女が、危ないんじゃないのか?」
眉を寄せながら、部長はビルを見上げる。
何だか、悪い先入観に囚われているんじゃなかろうか、この人。
別に、全部が全部危険って訳じゃないのに。
だが、部長は更に続けた。
「――事情は、巽から聞いた。……だから、会社でも部屋の空きをチェックしていたんだな」
その言葉に、無性に恥ずかしくなる。
そんなプライベート、聞かない振りくらいしなさいよ!
あたしは、部長に背を向け、ネカフェの自動ドアをくぐろうとする。
「おい、白山!」
「――うるさいっ、いい加減にしてよ!」
引き留めようと伸ばされた手を、あたしは払い落とした。
「放っておいてよ!上司ってだけで、偉そうにっ……!」
すると、一瞬眉を寄せた部長は、次にはあたしの手をつかみ、反対の手で大きな方のバッグを持った。
「ちょっ……‼」
思った以上に強い力に、引きずられるように歩き出す。
「部長!」
「ああ、部長だよ!だから、部下の安全を守る義務があるんだよ!」
「――っ……」
半分キレ気味に言われ、思わず口を閉じた。
――……何よ……偉そうに……。
来た道を歩きながら、あたしは、目の前の広い背中を見やる。
口調とは裏腹に、その、握った手は優しく包み込んでくれていて。
「……言い方が気に障ったなら、謝る」
その言葉に、あたしは、思わず顔を上げてしまう。
だが、部長はそのまま、前を見たままだ。
そして、少々気まずそうに続けた。
「――……とにかく……心配させるな」
それは――何だか、本心のように思えて。
あたしは、再びうつむいてしまう。
――……やめてよ。
――……弱ってるんだから、優しいコト言わないでよ。
――好きになったら、どうしてくれるのよ。
あたしは、心の中で、ぼやいた。
――もう、何て災難。
会社以外で上司に会うなんて。
あたしは、チラリと壁にかかっていた時計を見上げる。
もう、六時を過ぎている。
舞子には、部屋を探してくると伝えてあるが、今日は秋成さんが部屋に泊まるそうだから、戻らないつもりだ。
あたしは、バッグを持って立ち上がる。
ひとまず……今日明日はネカフェだ。
そう考え、駅の通路を通り、反対側に出て数メートル。
チェーン店の看板が並ぶ中、その店はあった。
六階建ての細長いビル全部がネットカフェだ。
だんだん暗くなってくると、駅前は客層が変わってくるから、早目に入ってしまおう。
そう思い足を踏み出した途端、左腕をつかまれた。
「――え」
もう、三回目ともなると、その手の感触でわかってしまう。
「――……黒川部長?」
「……お……前はっ……!危機感ってモンは無いのかっ……!」
だが、以前と同じように怒られ、あたしはムッとして部長の手を振り払う。
今はプライベートだ。
上司部下は関係ない。
「――別に、良いでしょ。……部長の生活を脅かすつもりはありませんから、ご安心くださいな」
あたしは、そう言って、部長をにらみ上げる。
視線が近いと感じるのは、ヒールの高い靴を履いていたせいか。
部長は、少々、息切れをしながら、あたしをにらむように見下ろす。
「――……とりあえず、戻れ」
「は?」
「……だからっ……あのマンションに住んだって、別に、オレはかまわない。ただの入居者だしな」
――だから、何だ。
あたしは、アンタの許可をもらってまで、住みたい訳じゃないわよ。
心の中で毒づきながら、首を振る。
「――大丈夫です。――身の丈に合った住まいを見つけますので」
「それまで、ネットカフェで寝泊まりする気か?妙齢の女が、危ないんじゃないのか?」
眉を寄せながら、部長はビルを見上げる。
何だか、悪い先入観に囚われているんじゃなかろうか、この人。
別に、全部が全部危険って訳じゃないのに。
だが、部長は更に続けた。
「――事情は、巽から聞いた。……だから、会社でも部屋の空きをチェックしていたんだな」
その言葉に、無性に恥ずかしくなる。
そんなプライベート、聞かない振りくらいしなさいよ!
あたしは、部長に背を向け、ネカフェの自動ドアをくぐろうとする。
「おい、白山!」
「――うるさいっ、いい加減にしてよ!」
引き留めようと伸ばされた手を、あたしは払い落とした。
「放っておいてよ!上司ってだけで、偉そうにっ……!」
すると、一瞬眉を寄せた部長は、次にはあたしの手をつかみ、反対の手で大きな方のバッグを持った。
「ちょっ……‼」
思った以上に強い力に、引きずられるように歩き出す。
「部長!」
「ああ、部長だよ!だから、部下の安全を守る義務があるんだよ!」
「――っ……」
半分キレ気味に言われ、思わず口を閉じた。
――……何よ……偉そうに……。
来た道を歩きながら、あたしは、目の前の広い背中を見やる。
口調とは裏腹に、その、握った手は優しく包み込んでくれていて。
「……言い方が気に障ったなら、謝る」
その言葉に、あたしは、思わず顔を上げてしまう。
だが、部長はそのまま、前を見たままだ。
そして、少々気まずそうに続けた。
「――……とにかく……心配させるな」
それは――何だか、本心のように思えて。
あたしは、再びうつむいてしまう。
――……やめてよ。
――……弱ってるんだから、優しいコト言わないでよ。
――好きになったら、どうしてくれるのよ。
あたしは、心の中で、ぼやいた。