EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー

fight.32

 仕方なしに、一日中、家で細かいところを掃除したり、片付けしたり――残っている材料で、手のかかる料理を作ってみたり。
 ようやく、日も落ち、朝日さんが帰って来るのを待っているが、忙しいのか、何も連絡も来ないまま、九時を回った。

 ――……先に、お風呂入ろうかな。

 彼に、一人で食事をさせたくはなかったから、できる事を先に済ませてしまおう。
 そう思ったら、ガチャリ、と、玄関のドアが開く。
「お帰りなさい。――忙しかった?」
「あ、ああ。……ただいま。遅くなったな」
 あたしは、首を振ると、夕飯の支度を始める。
「良かった。先にお風呂にしようかと思ってたから」
「美里」
「え?」
 ほんの少し硬い声に、あたしはキョトンとする。
「……今日、外に出たか?」
 その問いかけに、眉を寄せた。
「あんなに痕つけられて、平気な顔で出られる訳ないでしょ!……ずっと家にいたから、時間持て余しちゃったじゃない」
 すると、朝日さんはホッとしたように、苦笑いを浮かべた。
「悪いな。――オレがいないところで、また、悪い虫が寄って来たら困るんでな」
「……だからって……」
 あたしは、料理を並べながらも、鎖骨についたままの痕を見やる。
「……どうして、こんなにつけるのよ」
「それは……まあ、止まらなくてな」
「……ホント、エロオヤジなんだから」
 ついこぼした言葉に、我に返る。
 恐る恐る彼を見やれば、不自然なまでにニッコリと微笑まれた。

「――ああ、そうだな。お前限定で、エロオヤジだ」

「……あ、朝日さん……?」

「無理はさせたくなかったが――気が変わった。覚悟しておけよ」

「いえっ……あのっ、すみません!失言でしたっ!」

 思わず敬語が出てしまう。
 更に眉を寄せた彼は、食事と片付けを終えると、あたしを抱え上げリビングのソファに座った。
「――さて、と。まずは、一緒に風呂に入るか」
「……バカッ!」
 あたしをヒザの上に乗せ、朝日さんは、スルスルと服の間に手を入れる。
「――随分と薄着だな」
「……だって……」
 暑いけど、クーラーを一日中つけるのも気が引けるので、薄目のカットソーとショートパンツのままでいたのだ。
「まあ、すぐに熱くなるか」
「……朝日さん……。……何か、妙なエロ本とかに影響されてません?」
 彼の言葉や行動は、どうにも、元カレ達が持っていた本やアダルトサイトのようなものに近くて――まあ、不可抗力で見たものばかりだけれど――あたしは眉を寄せる。
 すると、彼は、ガチリ、と、固まり、視線を逸らした。
「……べ、別に……」
「――いえ、まあ、大丈夫ですから」
 図星だったのか、バツが悪そうな表情に、思わず気を遣ってしまう。

 ――そうだった。

 この(ひと)、ついこの前まで、童貞だったんじゃない。

 経験豊富そうな容姿のせいで、すっかり頭から抜け落ちていたけれど。
 ――すべて、あたしが初めてで。

 おそらく、情報をいろんなところで見ていたんだろう。
 朝日さんの性格なら、準備万端にしていても、おかしくない気がする。

「――おい、美里?」

「ううん、何でもない」

 クスクスと笑ってしまい、更に、朝日さんの気圧は下がる。

「……余裕だな」
「……そ、そんなコトはありません」
「――……情報源は、まあ、企業秘密ってコトにしておけ。そんなところまで知りたいか、お前?」
「……いいえっ!」
 そんな裏事情は、知らないのが一番だ。
 あたしが思い切り首を振ると、朝日さんは口元を上げ、背中に吸い付いた。
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