EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
 連休二日目。
 朝日さんは、既に出勤している。
 週末なので、仕事を持ち越さないようにしているようだ。
 あたしは、自分の仕事が心配になって尋ねてはみたが、どうやら、ホームページにはちゃんと報告が上がっているし、コメントもついていて、秋口に期待しているとの声もあったようだ。
「ここ最近、頑張りすぎだからな。――ご褒美と思って、休んでおけ」
 そう言って、彼は、ベッドに潜ったままのあたしの髪を撫でた。

 さすがに、今日は外に出たいと懇願し、ギリギリのところに痕が数個で済んだ。
 ――ていうか、普通、つけないわよね⁉
 思わずボヤいてしまうけれど、すぐに気を取り直し、着替える。
 長めのカットソーと、長めのデニムスカート。
 不自然な動きを隠したいがためのものだ。
 バッグとエコバッグを持ち、マンションを出る。
 久々の真昼の日差しは、目に痛いくらい。
 あたしは、駅を大回りして、そのまま商店街の方に向かう。
 ネットスーパーで買ってはいるけれど、やっぱり、手に取りたいものもある。
 昔のように、見切り品を探してしまうのは、もう、しょうがない。
 ――ていうか、別に腐ってる訳でもないし、すぐ食べるのなら、問題無いでしょ。
 まあ、たまにハズレはあるけど。
 それでも、ちょっと前の新製品が安くなっていたり、お菓子が大量に見切られていたりすると、飛びついてしまうのだ。
 ――あたし、コレ、直した方が良いんだろうか……?
 さすがに、朝日さんといる時に、こういう買い物はできない。
 でも、長い間刷り込まれた感覚は、そう簡単に直らない気もするのだ。
 あたしは、頭を悩ませながらも、一通り買い終え、帰りがけに、少しだけウィンドウショッピングをする。
 買いたいものは無いけれど、見ている分には、気分は上がる。
 そんな風に半日過ごし、少し遅いお昼ご飯のメニューを考えていると、不意にマンションの前に人影を見つけ、あたしは足を止めた。

 ――……え?

 マンションの門の脇にたたずむのは――先日の彼女。
 朝日さんを殴り、恨み言を投げつけた、元社員。

 ……何でいるの……?

 そう思った瞬間、目が合う。
 向こうも一瞬、驚いた表情を見せるが、すぐにあたしをにらみつけた。
 そして、こちらに大股で近づいてくると、真ん前に立つ。
「……あ……あの……」
「――……ふぅん。……アンタ、あの時、課長の隣にいた女よね。デキてたわけ」
「あ、あの、何で……」
 何で、ここが――そう思うと同時に、昨夜の朝日さんを思い出す。
 あの硬い表情の理由は――。

 ――まさか、この(ヒト)……ここを突き止めて……?

 彼女は、あたしの全身をなめるように見ると、口元を上げた。
「アンタも、かわいそうね。あんな、人でなしにつかまるなんて」
「――ど、どういう意味ですか」
「あんな男、早く見切った方が良いわよ。――それに、あたしは、アイツに責任を取らせないとだから、アンタ、邪魔だし」
「……は?」
 呆気にとられるが、次には我に返る。
「な、何で……そんな風に……」
「アイツのせいで、あたしは、仕事も幸せも――全部失ったのよ。責任取って、結婚くらいしても当然よね」
 あたしは、その言葉に息をのむ。

 ――……え?

 彼女は、ほんの少しだけ口元を上げると、あたしに言った。

「アイツは、自分の事しか考えない最低な男よ。――すぐに、わかるんじゃないの」

 それだけ言い残し、彼女は踵を返し、駅へ向かって歩き出した。


 あたしは、しばらくの間――彼女の姿が消えても、その場から動けずにいた――……。
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