EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
帰って来た朝日さんは、出迎えたあたしを見ると、ホッとしたような表情を見せる。
――それは、あたしが、あの女と接触していないか、心配だったからだろう。
「お……お帰りなさい」
その言葉を出すのも、怖くなる。
震えてしまう声に、彼は眉を寄せた。
「美里……どうかしたのか?」
「う、ううん。……何でもない」
作った笑顔が、彼に通用するはずもなく。
あたしは、両肩を掴まれる。
「何でもない顔してないぞ」
「――……本当に、何でもないの。……それより、今日、外に出たんだけど」
「美里」
「久し振りにスーパー行ったら、結構、いろいろ安くて」
笑顔を作ったまま、不自然なほどに明るく振る舞う。
――聞いたら、ダメだ。
――……聞いたら……きっと、すべて失くしてしまう。
なら、知らない振りをしているしかない。
あたしの意思が変わらないのを感じたのか、朝日さんは、微かにため息をつくと、洗面所に向かった。
昨日とは打って変わって、静かな夕食。
そして、あたしは、彼女が話題に上らないように、先回りして家事を済ませた。
「休みのうちは、あたしが全部やるから。――朝日さんは、ゆっくりしてて」
「美里」
「あ、そうだ、明日お菓子作ろうと思って……」
片付けを終え、リビングのソファに座っている朝日さんに、声をかける。
彼は、気まずそうに視線を逸らした。
その態度に、胸の奥が悲鳴を上げる。
――でも、もう、朝日さんと離れる事は選べない。
……例え、あの女が、何を言ってこようと――信じたかった。
落ち着きを取り戻したら……ちゃんと、話してくれるんだと、そう思っていた。
珍しく、あたしに触れる事なく眠った朝日さんは、先に起きて、いつも通りの家事を始めた。
あたしは、慌てて起きると、すぐに寝室から出た。
「あ、朝日さん、あたしがやるってば」
「――おはよう、美里。……ルーティンだから、気になるんだよ」
「……でも」
「なら、お前、朝メシ作ってくれ。……な?」
ワイパーを動かしながら、あたしを見やる彼に、ただ、うなづく。
あからさますぎるほどに、取り繕われた態度。
あたしは、泣き出したくなる衝動を無理矢理押さえて、キッチンに立った。
「き、今日はどうするの……?」
気温は高いのに、二人の間の空気は冷たい。
その事実に、泣きたくなるが、あたしは、勇気を振り絞るようにして尋ねた。
「――……指輪……」
「え?」
朝日さんは、あたしの後ろに立つと、持っていた包丁を下ろさせる。
そして、力の限り抱き締めてきた。
「……指輪、決めに行こう」
「朝日さん?」
唐突な言葉に、あたしは顔だけを彼に向けた。
「え、でも」
「――婚姻届も、出そう。……ご両親には、事後報告で申し訳無いが、証人欄は、巽と舞子くんに頼もう」
「ちょっ……朝日さん⁉」
次々に出てくる言葉に、動揺を隠せない。
「もう――オレが一生養うから……仕事、辞めないか……?」
「……え……」
泣きつくようなしぐさに、あたしは、硬直する。
「朝日さん、落ち着いて。……急すぎる」
「急じゃない。――遅いくらいだ」
「でも」
こんな風に次々と言われたら、気持ちがついていけない。
「――……そしたら、もう少し違うところに引っ越して……ああ、子供も欲しいな」
「朝日さんっ‼」
あたしは、力任せに彼の腕をはがす。
そして、振り返り――固まった。
――……え。
彼の左頬を伝う、一筋の涙に、そっと触れる。
その手を、痛いくらいに握られ、あたしは眉を寄せた。
「あ、朝日さん……?」
「……ごめん……。――……しばらく……ここを出てくれないか……」
「――……え」
そして、その手は、自分でもわかるくらいに固まった。
――それは、あたしが、あの女と接触していないか、心配だったからだろう。
「お……お帰りなさい」
その言葉を出すのも、怖くなる。
震えてしまう声に、彼は眉を寄せた。
「美里……どうかしたのか?」
「う、ううん。……何でもない」
作った笑顔が、彼に通用するはずもなく。
あたしは、両肩を掴まれる。
「何でもない顔してないぞ」
「――……本当に、何でもないの。……それより、今日、外に出たんだけど」
「美里」
「久し振りにスーパー行ったら、結構、いろいろ安くて」
笑顔を作ったまま、不自然なほどに明るく振る舞う。
――聞いたら、ダメだ。
――……聞いたら……きっと、すべて失くしてしまう。
なら、知らない振りをしているしかない。
あたしの意思が変わらないのを感じたのか、朝日さんは、微かにため息をつくと、洗面所に向かった。
昨日とは打って変わって、静かな夕食。
そして、あたしは、彼女が話題に上らないように、先回りして家事を済ませた。
「休みのうちは、あたしが全部やるから。――朝日さんは、ゆっくりしてて」
「美里」
「あ、そうだ、明日お菓子作ろうと思って……」
片付けを終え、リビングのソファに座っている朝日さんに、声をかける。
彼は、気まずそうに視線を逸らした。
その態度に、胸の奥が悲鳴を上げる。
――でも、もう、朝日さんと離れる事は選べない。
……例え、あの女が、何を言ってこようと――信じたかった。
落ち着きを取り戻したら……ちゃんと、話してくれるんだと、そう思っていた。
珍しく、あたしに触れる事なく眠った朝日さんは、先に起きて、いつも通りの家事を始めた。
あたしは、慌てて起きると、すぐに寝室から出た。
「あ、朝日さん、あたしがやるってば」
「――おはよう、美里。……ルーティンだから、気になるんだよ」
「……でも」
「なら、お前、朝メシ作ってくれ。……な?」
ワイパーを動かしながら、あたしを見やる彼に、ただ、うなづく。
あからさますぎるほどに、取り繕われた態度。
あたしは、泣き出したくなる衝動を無理矢理押さえて、キッチンに立った。
「き、今日はどうするの……?」
気温は高いのに、二人の間の空気は冷たい。
その事実に、泣きたくなるが、あたしは、勇気を振り絞るようにして尋ねた。
「――……指輪……」
「え?」
朝日さんは、あたしの後ろに立つと、持っていた包丁を下ろさせる。
そして、力の限り抱き締めてきた。
「……指輪、決めに行こう」
「朝日さん?」
唐突な言葉に、あたしは顔だけを彼に向けた。
「え、でも」
「――婚姻届も、出そう。……ご両親には、事後報告で申し訳無いが、証人欄は、巽と舞子くんに頼もう」
「ちょっ……朝日さん⁉」
次々に出てくる言葉に、動揺を隠せない。
「もう――オレが一生養うから……仕事、辞めないか……?」
「……え……」
泣きつくようなしぐさに、あたしは、硬直する。
「朝日さん、落ち着いて。……急すぎる」
「急じゃない。――遅いくらいだ」
「でも」
こんな風に次々と言われたら、気持ちがついていけない。
「――……そしたら、もう少し違うところに引っ越して……ああ、子供も欲しいな」
「朝日さんっ‼」
あたしは、力任せに彼の腕をはがす。
そして、振り返り――固まった。
――……え。
彼の左頬を伝う、一筋の涙に、そっと触れる。
その手を、痛いくらいに握られ、あたしは眉を寄せた。
「あ、朝日さん……?」
「……ごめん……。――……しばらく……ここを出てくれないか……」
「――……え」
そして、その手は、自分でもわかるくらいに固まった。