EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー

fight.33

 うつむいたまま、マンションを後にすると、駅を大回りして住宅街の入り口にある公園にたどり着く。
 辺りは街灯のみの明かりで、遠くから、家族団らんの声がかすかに聞こえた。
 あたしは、入ってすぐのベンチに腰掛けると、顔を伏せる。


 ――……ああ、もう、あたしには、幸せな恋愛なんて、できないんだ。

 ――……その先にある、幸せな家庭も、何も……望めない。


 そう思えば、ボロボロと涙があふれ出てきて、一人しゃくり上げながら泣き続ける。

 ……もう、誰もいらない。

 あたしには――必要としてくれる人も、必要とする人も……もう、いらない。


「――白山、さん……?」

「え」

 すると、不意に名前を呼ばれ、あたしは顔を上げる。
 目の前には、戸惑いを隠そうとしない――

「……高根さん……」

「ど、どうしたんですか!こ、こんな時間に、女性一人で……何かあったんですか⁉」

 慌てる彼に、あたしは苦笑いが浮かぶ。
 ――ああ、どうして、あたしなんかを、こんなに気にかけてくれるんだろう。
「……白山さん?」
「……ありがとうございます。……大丈夫ですから……」
「そんな訳ないですよね。――泣いてたんでしょう」
 そう言い切られ、あたしは、視線を下げる。
「こんな荷物持って……何があったんですか。警察行きますか?」
 あたしは、ゆるゆると首を振る。
「……ありがとうございます。……違うんです。……そんな大げさな事じゃなくて……」
 高根さんは、あたしの隣に、そっと腰を下ろした。
 そして、気まずそうにのぞき込む。
 そんな彼を見ず、自虐気味に言った。

「――……彼と別れちゃいました。……同棲してたんで、荷物抱えて出てきちゃいました」

「――……え」

「……もう、良いんです。――……あたし、やっぱり、男見る目、無いんですよね。……ホント……自分でも、嫌になるくらい……」

 無理矢理に笑顔を作り、立ち上がろうとすると、不意に腕を取られる。
「……高根さん?」
「これから、どうするつもりですか」
「――さあ」
「え」
 自嘲気味に返すあたしを、彼は、驚いて見た。
「……どこも、行く当てなんて、ありません」
 そう言うと、彼の手を離そうとするが、逆に力を込められた。
「……高根さん?」
「――……い、行く所無いんなら……僕のところに来ませんか」
「――え」
 目を丸くしているあたしを抱き寄せると、彼は続けた。

「――は、初めて会った時からっ……好きでしたっ……」

「え」

「あんな素敵な彼氏さんがいるって知って、何度もあきらめようとしたんです。……でも、こんな風にあなたを泣かせるなら――もっと早く、伝えれば良かった」

「高根さん――」

 あたしは、頭が真っ白になる。
 彼は、あたしを抱き締めたまま続けた。
 その腕は、緊張なのか、震えが伝わる。

「――……お願いです。……今すぐとは言いません。……あなたの傷が癒えたら――僕を見てくれませんか……」

「――……た……かね、さん……」

 その、真っ直ぐな言葉に、あたしは、顔を上げる。
 彼は、そっと離すと、頬を流れる涙を拭ってくれた。

「ひとまず、僕の部屋、近くなんで――来ますか?」

 あたしは、一瞬迷うが、コクリとうなづく。
 ――このまま、ここにいるよりは、少なくとも安全だと思う。
 万が一、下心があったとしても――もう、構わない。

 ――……朝日さんとは、別れたんだから。
< 156 / 195 >

この作品をシェア

pagetop