EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー

fight.34

 それから、細々したルールを、高根さんと二人で決める。
 水回りや家具家電は共用。
 食事は各自。
 あたしは、お礼代わりに作ろうかと思って彼に申し出たが、やんわりと断られた。
「僕、生活、結構不規則なんで外で済ませるんです。合わせてもらうのも申し訳無いですし、気にしないでください」
 そう言うと、彼は、笑って冷蔵庫を開けて見せた。
 中は、ペットボトルくらしか入っていない。
「でしょう?自炊する冷蔵庫じゃありませんから」
「――は、はあ……」
 でも、そんなんで大丈夫なんだろうか。
「それに、そこまでされると、結婚願望が止められなくなっちゃいますし」
「あ、そ、それは……」
 続いた言葉に、あたしは慌てる。
 確かに、それは困る。
 その態度が、あんまりにも、あからさまだったので、高根さんはクスクスと笑った。
「――だから、気にしないで好きに使ってください。費用は――そうですね、家賃の半額で」
 あたしは、一瞬ギクリとしてしまう。
 ――ああ、そうだ、朝日さんに家賃払わなきゃ……。
 何だかんだと、うやむやにになってしまっていたのだ。
「白山さん?」
「え、あ、すみません。……おいくらでしょうか」
「ここ、駅近いんで、ちょっと高いんですけど――十二万なんで、六万ですね」
「わかりました。今、手持ちが無いんで、明日――」
 すると、高根さんは慌てて止めた。
「いえ、後払いで構いません」
「でも」
「――それに、一か月いなかったら、日割りにしますし」
 あたしは、目を丸くする。
「……そ、そこまでは……」
「いえ、僕が気になっちゃうんで」
「――そう、ですか」
 何となく金銭感覚が似ているようで、あたしはホッとしてしまった。


「――じゃあ、僕、明日は代休なんで」

「ハイ、おやすみなさい」

 部屋をどうにか収納家具で区切り、彼は布団、あたしはベッドを使う事になった。
 どうも、ライフプレジャー社の人達が泊まる事もあるようで、客用布団だけは二つもあったのだ。
 明日から、また会社。

 ――朝日さんと、顔を合わせないといけない。

 そう思うと、気分は沈むけれど――仕事を投げ出す訳にはいかないだろう。

「――白山さん」

「……ハイ?」

「……いえ……僕に気を遣わなくて良いんで……泣きたい時は、泣いてくださいね」

 あたしは、その気遣いに胸が熱くなる。
 ――こんな優しい人が、あたしを好きだなんて。

「……ありがとうございます」

 家具越しにお礼を言うと、あたしは、そっと眠りについた。
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