EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
翌朝、眠っている高根さんを起こさないように、出勤の支度をする。
スーツケースから服を取り出すと、洗面所で着替え、そのままメイク。
今日は、食材も無いので、駅で何かを買って――そう思ったが、やめにする。
やはり、まだ、節約の意識は抜け切れないのだ。
――朝昼一緒でいいか。
あたしは、そっと部屋を出る。
昨日渡された鍵をかけると、バッグにしまった。
まるで、恋人にでもなったような――そんな錯覚をしてしまうけれど、胸の痛みが、それを否定する。
そして、会社の最寄り駅で降り、近くのコンビニで先におにぎりとお茶を買うと、すぐに見えた社屋へと向かった。
「おはようございます」
総務部の部屋に、緊張しながら入ると、すぐに、こちらを見やった朝日さんと目が合った。
あたしは、すぐに視線を逸らし、自分の席に着く。
「おはようございます、白山先輩」
すると、曽根さんが隣からのぞき込み、書類を見せた。
「すみません、ちょっと確認させていただいても良いですか?」
「あ、ハイ。どうぞ」
彼女に説明をし終え、あたしは、自分のパソコンを立ち上げる。
連休明けなので、いろいろメールなどが溜まっていたので、それを確認したり、ホームページを確認したり。
そして、秋口の全支社でのバーベキュー大会に向けて、それぞれの担当者に連絡をつけたりと、再び忙しない時間が過ぎていった。
お昼のベルが鳴ると同時に、バタバタと社食や外食に向かう人達を見送ると、あたしは、机の上に、朝買ったものを取り出す。
「――美里」
すると、後ろから声をかけられたが、振り返る事なく返事をした。
「――……何でしょうか、黒川部長」
硬い声で答えると、朝日さんは、口ごもる。
「……御用があるなら、お昼が終わってからでよろしいでしょうか」
「美里」
「――……馴れ馴れしく呼ばないでください。……セクハラ事案になりますよ」
「――……今、どこにいるんだ?」
その質問に、あたしは、眉を寄せる。
「……プライベートです」
「――……話は、できないのか……?」
「――……もう、お話する事は無いかと」
「オレはある」
「……あたしには、ありません」
そう言い切ると、あたしは、おにぎりのパッケージを開く。
「――……食事、させていただけますか」
「……じ、じゃあ……仕事が終わったら――話したい」
「申し訳ありませんが、所用がありますので」
あくまで、頑なに拒否をする。
――あれ以上、みじめな想いは……したくなかった。
帰り際、朝日さんの席を見やれば、どうやら急ぎの仕事のようで、あたしをチラリと見やると、すぐに視線をパソコンに移した。
それに、少しだけホッとして、会社を後にする。
そして、新井さんに見つからないように、不動産会社の情報を探してみるが、中々、良いところは無いようだ。
――やっぱり、条件妥協しないとよね……。
そんな事を思いながら、高根さんの部屋へと歩き出すと、バッグが不自然に震えた。
中からスマホを取り出せば、舞子から着信だ。
――珍しいな。
舞子は定休日だけれど、基本、メッセージでやり取りなのに。
あたしは、スマホをタップすると、耳元にあてる。
『ちょっと、美里!アンタ、一体、どうなってんのよ!』
「……え?」
思わず立ち止まるが、邪魔にならないよう、道の端に移動する。
『え、じゃない!……昨日、黒川さんが、アタシのトコに来たんだけど!』
「――え……」
『血相変えて――アンタの行方知らないかって……何があったのよ!』
あたしは、口を閉ざしてしまう。
――舞子のところにまで行ったなんて……!
『……あの男、アンタが出て行ったって……ホントに、大丈夫なの?結婚、するんでしょ?』
その言葉に、涙腺が刺激されるが、どうにか耐える。
「……ごめん……舞子……」
『――……美里?』
「……今度こそ、って思ったのにさ……」
『――ちょっと、アンタ、またダメ男にしたとか言わないわよね?!」
あたしは、その問いかけに、自嘲気味に口元を上げた。
「――……残念ながら、今回は違うの」
『美里?』
「……あの男は――あたしと出会う前から、ダメ男だったのよ」
スーツケースから服を取り出すと、洗面所で着替え、そのままメイク。
今日は、食材も無いので、駅で何かを買って――そう思ったが、やめにする。
やはり、まだ、節約の意識は抜け切れないのだ。
――朝昼一緒でいいか。
あたしは、そっと部屋を出る。
昨日渡された鍵をかけると、バッグにしまった。
まるで、恋人にでもなったような――そんな錯覚をしてしまうけれど、胸の痛みが、それを否定する。
そして、会社の最寄り駅で降り、近くのコンビニで先におにぎりとお茶を買うと、すぐに見えた社屋へと向かった。
「おはようございます」
総務部の部屋に、緊張しながら入ると、すぐに、こちらを見やった朝日さんと目が合った。
あたしは、すぐに視線を逸らし、自分の席に着く。
「おはようございます、白山先輩」
すると、曽根さんが隣からのぞき込み、書類を見せた。
「すみません、ちょっと確認させていただいても良いですか?」
「あ、ハイ。どうぞ」
彼女に説明をし終え、あたしは、自分のパソコンを立ち上げる。
連休明けなので、いろいろメールなどが溜まっていたので、それを確認したり、ホームページを確認したり。
そして、秋口の全支社でのバーベキュー大会に向けて、それぞれの担当者に連絡をつけたりと、再び忙しない時間が過ぎていった。
お昼のベルが鳴ると同時に、バタバタと社食や外食に向かう人達を見送ると、あたしは、机の上に、朝買ったものを取り出す。
「――美里」
すると、後ろから声をかけられたが、振り返る事なく返事をした。
「――……何でしょうか、黒川部長」
硬い声で答えると、朝日さんは、口ごもる。
「……御用があるなら、お昼が終わってからでよろしいでしょうか」
「美里」
「――……馴れ馴れしく呼ばないでください。……セクハラ事案になりますよ」
「――……今、どこにいるんだ?」
その質問に、あたしは、眉を寄せる。
「……プライベートです」
「――……話は、できないのか……?」
「――……もう、お話する事は無いかと」
「オレはある」
「……あたしには、ありません」
そう言い切ると、あたしは、おにぎりのパッケージを開く。
「――……食事、させていただけますか」
「……じ、じゃあ……仕事が終わったら――話したい」
「申し訳ありませんが、所用がありますので」
あくまで、頑なに拒否をする。
――あれ以上、みじめな想いは……したくなかった。
帰り際、朝日さんの席を見やれば、どうやら急ぎの仕事のようで、あたしをチラリと見やると、すぐに視線をパソコンに移した。
それに、少しだけホッとして、会社を後にする。
そして、新井さんに見つからないように、不動産会社の情報を探してみるが、中々、良いところは無いようだ。
――やっぱり、条件妥協しないとよね……。
そんな事を思いながら、高根さんの部屋へと歩き出すと、バッグが不自然に震えた。
中からスマホを取り出せば、舞子から着信だ。
――珍しいな。
舞子は定休日だけれど、基本、メッセージでやり取りなのに。
あたしは、スマホをタップすると、耳元にあてる。
『ちょっと、美里!アンタ、一体、どうなってんのよ!』
「……え?」
思わず立ち止まるが、邪魔にならないよう、道の端に移動する。
『え、じゃない!……昨日、黒川さんが、アタシのトコに来たんだけど!』
「――え……」
『血相変えて――アンタの行方知らないかって……何があったのよ!』
あたしは、口を閉ざしてしまう。
――舞子のところにまで行ったなんて……!
『……あの男、アンタが出て行ったって……ホントに、大丈夫なの?結婚、するんでしょ?』
その言葉に、涙腺が刺激されるが、どうにか耐える。
「……ごめん……舞子……」
『――……美里?』
「……今度こそ、って思ったのにさ……」
『――ちょっと、アンタ、またダメ男にしたとか言わないわよね?!」
あたしは、その問いかけに、自嘲気味に口元を上げた。
「――……残念ながら、今回は違うの」
『美里?』
「……あの男は――あたしと出会う前から、ダメ男だったのよ」