EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「――いえ、やっぱり、デートのお誘いです。……もう、あなたが好きと言っている以上、ごまかしてもしょうがないですよね」
「……高根さん……」
「……気晴らしに、どうでしょうか……?」
あたしは、彼の視線を受けきれずに目を伏せた。
「――……すみません……。……まだ……そういう気分にはなれなくて……」
「あ、そ、そう、ですよねっ……!僕こそ、すみません」
「いえ、あの……ありがたいとは思うんですけど……まだ、全然、気持ちの整理がつかなくて……」
すると、彼はニコリと微笑む。
「――じゃあ、僕、まだ、あきらめなくて良いんですね」
「え」
「……落ち着いたらで良いんです。……待ってますから……」
あたしは、その言葉に頭を下げた。
「――ありがとうございます」
――……でも……自分でも、この気持ちがどうなるかなんて、想像もつかないから……。
曖昧にしたままでズルいけれど……キッパリと断る気にもなれない。
――……こんな感情、高根さんに申し訳無いのに……。
「白山さん、こっち、手伝ってくれるー⁉」
お盆前の週で、仕事はバタバタと忙しさを増すが、あたし自身、秋口のバーベキュー大会二回目の企画書を提出し終えて、ひとまず手は空いた。
朝日さんは、あくまで、仕事中は上司の体裁を保っているので、あたしも冷静を装って、仕事ができる。
小坂主任は、溜め込んでいた仕事をあたしに半分以上投げてくれて、結局、今日は残業になってしまった。
「お疲れ様でしたー!」
いつもなら定時で帰っていくメンバーも、さすがに残って仕事だ。
この後、お盆休みは五日間あるので、計画のある人間はそわそわしっぱなしだったけれど。
あたしは、投げられた仕事を終え、小坂主任にプリントアウトしたものを渡す。
それで、今日は終了だ。
「お先に失礼します」
「ありがとー!助かったわー!」
軽く礼を言われ、あたしは、頭を下げて総務部を後にする。
もう、七時を過ぎてしまったが――誰が待っている訳でもない。
――……高根さんと、顔を合わせる時間も少ないから、本当に一人になった気分だ。
「――白山」
エレベーターを一人で待っていると、後ろから声がかけられ、振り返る。
――もう、その声を聞いても、胸が痛いだけなのに。
「――何か不備でもありましたでしょうか」
午前中に提出した書類は、もう、朝日さんの元に渡っているので、突き返されるか。
そう構えていると、彼は、真剣な表情を見せた。
「……仕事に問題は無い。――あのまま提出した」
「ありがとうございます」
「――……舞子くんにも聞いたが、お前、一体今どこにいるんだ……?」
あたしは、視線を下げると、彼に背を向けた。
「――申し訳ありません。プライベートです」
「――引っ越すなら、連絡先の変更をしておけ、と言っているんだ」
頑なな態度に、ついに、彼も態度を変えた。
――……ああ、それで良い。
……もう、仕事以外に、接点は持たないんだから。
「――……承知しました」
あたしは、そう言って、到着した箱の中に入った。
すると、すぐに、朝日さんも入って来る。
ギョッとして見上げると、扉が閉まった瞬間、抱き締められた。
「ちょっ……」
「――……ちゃんと、ケリはつける」
「え?」
そう言ってあたしを離すと、朝日さんは、あたしを見つめた。
「――……水沢とは、きちんと話し合う。……ちゃんと、お互いに納得する形にするから――」
「……結婚の報告なら、いりませんが」
「違う!」
彼は、勢い任せに、あたしの両肩を強く掴んだ。
「――部長!」
「……全部終わったら……また、一からやり直させてくれ」
その言葉に、反射的に首を振る。
――……もう、言っている事は、寿和と一緒じゃない。
「無理です。……あたしは……もう、誰もいらない」
「美里?」
すると、エレベーターの扉が開き、彼は手を離した。
「……お疲れ様でした。お先に失礼します」
あたしは、そう言い残すと、彼を置いて歩き出す。
浮かんでくる涙をこらえながら、エレベーターを出ると、足早に会社を出た。
朝日さんは、追っては来ず、あたしは、振り返る事なく駅へと歩き、ちょうど入って来た電車に飛び乗った。
――どんなにつらくても……仕事を辞める事はできない。
そして、辞めない以上、彼と顔を合わせないといけない。
……いっそ、配置転換希望しようか……。
別に、部署にこだわるつもりなんて、最初から無かったんだから。
――……ただ、配属先がそこだっただけ。
――……ただ、生きていければ――それで良かったんだ。
「……高根さん……」
「……気晴らしに、どうでしょうか……?」
あたしは、彼の視線を受けきれずに目を伏せた。
「――……すみません……。……まだ……そういう気分にはなれなくて……」
「あ、そ、そう、ですよねっ……!僕こそ、すみません」
「いえ、あの……ありがたいとは思うんですけど……まだ、全然、気持ちの整理がつかなくて……」
すると、彼はニコリと微笑む。
「――じゃあ、僕、まだ、あきらめなくて良いんですね」
「え」
「……落ち着いたらで良いんです。……待ってますから……」
あたしは、その言葉に頭を下げた。
「――ありがとうございます」
――……でも……自分でも、この気持ちがどうなるかなんて、想像もつかないから……。
曖昧にしたままでズルいけれど……キッパリと断る気にもなれない。
――……こんな感情、高根さんに申し訳無いのに……。
「白山さん、こっち、手伝ってくれるー⁉」
お盆前の週で、仕事はバタバタと忙しさを増すが、あたし自身、秋口のバーベキュー大会二回目の企画書を提出し終えて、ひとまず手は空いた。
朝日さんは、あくまで、仕事中は上司の体裁を保っているので、あたしも冷静を装って、仕事ができる。
小坂主任は、溜め込んでいた仕事をあたしに半分以上投げてくれて、結局、今日は残業になってしまった。
「お疲れ様でしたー!」
いつもなら定時で帰っていくメンバーも、さすがに残って仕事だ。
この後、お盆休みは五日間あるので、計画のある人間はそわそわしっぱなしだったけれど。
あたしは、投げられた仕事を終え、小坂主任にプリントアウトしたものを渡す。
それで、今日は終了だ。
「お先に失礼します」
「ありがとー!助かったわー!」
軽く礼を言われ、あたしは、頭を下げて総務部を後にする。
もう、七時を過ぎてしまったが――誰が待っている訳でもない。
――……高根さんと、顔を合わせる時間も少ないから、本当に一人になった気分だ。
「――白山」
エレベーターを一人で待っていると、後ろから声がかけられ、振り返る。
――もう、その声を聞いても、胸が痛いだけなのに。
「――何か不備でもありましたでしょうか」
午前中に提出した書類は、もう、朝日さんの元に渡っているので、突き返されるか。
そう構えていると、彼は、真剣な表情を見せた。
「……仕事に問題は無い。――あのまま提出した」
「ありがとうございます」
「――……舞子くんにも聞いたが、お前、一体今どこにいるんだ……?」
あたしは、視線を下げると、彼に背を向けた。
「――申し訳ありません。プライベートです」
「――引っ越すなら、連絡先の変更をしておけ、と言っているんだ」
頑なな態度に、ついに、彼も態度を変えた。
――……ああ、それで良い。
……もう、仕事以外に、接点は持たないんだから。
「――……承知しました」
あたしは、そう言って、到着した箱の中に入った。
すると、すぐに、朝日さんも入って来る。
ギョッとして見上げると、扉が閉まった瞬間、抱き締められた。
「ちょっ……」
「――……ちゃんと、ケリはつける」
「え?」
そう言ってあたしを離すと、朝日さんは、あたしを見つめた。
「――……水沢とは、きちんと話し合う。……ちゃんと、お互いに納得する形にするから――」
「……結婚の報告なら、いりませんが」
「違う!」
彼は、勢い任せに、あたしの両肩を強く掴んだ。
「――部長!」
「……全部終わったら……また、一からやり直させてくれ」
その言葉に、反射的に首を振る。
――……もう、言っている事は、寿和と一緒じゃない。
「無理です。……あたしは……もう、誰もいらない」
「美里?」
すると、エレベーターの扉が開き、彼は手を離した。
「……お疲れ様でした。お先に失礼します」
あたしは、そう言い残すと、彼を置いて歩き出す。
浮かんでくる涙をこらえながら、エレベーターを出ると、足早に会社を出た。
朝日さんは、追っては来ず、あたしは、振り返る事なく駅へと歩き、ちょうど入って来た電車に飛び乗った。
――どんなにつらくても……仕事を辞める事はできない。
そして、辞めない以上、彼と顔を合わせないといけない。
……いっそ、配置転換希望しようか……。
別に、部署にこだわるつもりなんて、最初から無かったんだから。
――……ただ、配属先がそこだっただけ。
――……ただ、生きていければ――それで良かったんだ。