EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
 翌朝、目が覚めれば、やっぱり一人で。
 高根さんとは、一体、いつ帰って、いつ出て行くのかと思うくらいに、顔を合わせていなかった。
 朝ご飯とお弁当を作ると、ガチャリと、ドアが開く。
「あ、お、おはようございます」
 すると、スーツ姿の高根さんが、慌てたように中に入って来た。
「お、おはようございます……」
「すみません、バタバタで。今日、ちょっと打ち合わせなのに、肝心のスマホ忘れちゃって……」
 言いながら、テーブルの上にあった、充電器につながったままのスマホを手に取った。
「ああ、充電してると、忘れちゃいますよね」
 あたしは、クスリ、と、口元を上げる。
 高根さんは、一瞬、あたしを見つめると、我に返ったように置いていたバッグを持った。
「じ、じゃあ、行ってきますね」
「――ハイ。いってらっしゃい」
 そう返すと、彼は、完全に停止した。
「……高根さん……?」
「え、あっ……その……いってらっしゃい、とか……ちょっと、クるものがあるというか……」
「……はあ……」
 赤くなった顔で、高根さんは続けた。
「――……今ので、今日は、一日頑張れます」
「……そう、ですか……」
 彼の言う意味がいまいち取れず、あたしは、それだけ返した。


 高根さんを見送った後、あたしも出勤の支度をする。
 だが、どんどん気分は沈むばかりだ。

 ――どうやったって、朝日さんと、顔を合わせないといけないんだから。

 あたしは、思い切り首を振ると、深呼吸して、ドアを開けた。

 ――あれこれ考えてもしょうがない。

 ――……もう、別れたんだし、割り切らなきゃ。

 いつもよりも気持ち大股で歩き出し、あたしは、電車に乗った。


 出勤してみれば、朝日さんは、会議の資料を作っているらしく、パソコンから目を離す事なく作業をしていた。
「あ、おはようございます、白山先輩」
「おはようございます」
 あたしは、それをチラリとだけ見やり、自分の席に着く。
 隣の曽根さんは、さっそく、入寮申請の作業に取り掛かっていた。
 季節の変わり目は、入退寮が増えるので、少しだけ手間取っているようだ。
 さりげなくアドバイスを送り、自分のパソコンを立ち上げる。
 会社のホームページをチェックすれば、既に、他の地域のバーベキュー大会のスケジュールや、詳しい告知も上がっていた。
 いつの間にか、自分の手を離れた仕事に、少しだけ複雑な思いだ。

「白山」

「――ハイ」

 すると、朝日さんに呼ばれ、あたしは硬い声で返事をする。
 手招きされたので、彼の元に向かうと、書類が手渡された。
 昨日の秋口のバーベキュー大会の企画書だ。
「――何か、不備がありましたでしょうか」
「……いや。そのまま進めてくれと、社長の一声だ。ライフプレジャー社の方と詰めて、最終決定を月末までにくれ」
「……承知しました」
 あたしは、頭を下げて自分の席に戻る。
 ――あくまで、仕事は仕事だ。
 そう、割り切っているのか、朝日さんは、何も態度に出さない。

 ――……そうして欲しかったはずなのに……悲しくなってしまうなんて……。

 ……あたし、こんなわがままな女だった……?
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