EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
その日の午後、高根さんに連絡をして、明日の午後に打ち合わせをする事になった。
本当は予定が入っていたようだが、別の人に代わってもらえたらしい。
そこまでしてもらうのは、申し訳無い気もするけれど、ありがたいので素直に甘えておく。
終業時間になり、それぞれが部屋を後にする中、チラリと振り返れば、朝日さんは、まだパソコンとにらみ合っていた。
「――……お先に……失礼します……」
ポツリと、震える声で言うと、彼は我に返ったように顔を上げ、あたしを見た。
「……あ、ああ。……お疲れ」
少しだけ眉を寄せながら、そう返すと、再び、パソコンに視線を向ける。
それが――当たり前のはずなのに……胸が痛い。
お互いにぎこちない空気。
でも――それを、疑問に思われない。
それが、あたし達の関係なんだ。
部屋に帰ると、高根さんが先に帰っていて、あたしを迎えてくれた。
「お帰りなさい」
「た……ただいま……」
まだ、慣れない。
けれど、彼はニッコリと微笑む。
「お疲れ様。今日は、ご連絡ありがとうございました」
「あ、ハイ。……急なお願いですみません。でも、助かります。今月末までに決定しないとなので」
「全然構いませんよ。――あ、でも、家では、仕事の話は無しにしましょうね」
あたしは、少しだけバツが悪くなる。
――……本当は、時間外だろうが、話をしたかったんだけど。
まあ、彼にとって、それは仕事のうちだから、無償奉仕になってしまう。
「白山さん、仕事熱心なのも良いですが……少しは力、抜きませんか?」
「え」
高根さんは、あたしの目の前に来ると、そっと抱き締める。
「え、あの、た……高根、さん……?」
「ホラ、身体中、力が入ってます」
彼は、そう言いながら、あたしの背中をそっと撫でる。
たぶん、子供をあやすような感覚だったんだろうけれど。
「――……んぁ……っ……」
朝日さんに隅々まで開発されてしまった身体には――刺激が強すぎて。
思わず出てしまった声に、高根さんは、慌てて距離を取った。
「あ、あのっ、僕、そんなつもりじゃ……」
「いえ、ち、違うんです……その……」
お互いに真っ赤になってうつむいてしまう。
まるで、学生のよう。
あたしは、口ごもりながらも、彼に言った。
「……すみません……。あたし、その……び、敏感、らしくて……」
まさか、事実を告げる訳にもいかず、そうごまかす。
「え、あっ……すみません……!……以後、気をつけます……」
彼は、反省しきりに言うので、申し訳無くなるけれど。
でも、また、同じ事をされた時――あたしが、どんな反応をしてしまうのかわからない以上、やめてもらった方が助かるのだ。
高根さんは、首まで赤くなりながら、ぎこちなくソファに座った。
テーブルには、どこかのお菓子屋の箱。
「あ、あの、趣旨がずれちゃいましたけど……おみやげ、です」
「え」
「今日、打ち合わせのトコ、近くに有名なお菓子屋さんがあって……お好きか、わからなかったんですが、良かったら……」
そう言いながら、箱を開けて、あたしに見せる。
中には、小さいけれど、意匠を凝らしたデザインのタルトが四個。
「僕も、結構、お菓子とか好きなんで……よく買って来るんですよ」
「――……そうなんですね……。……すごい、かわいい……」
食べるのが、もったいなくなるくらいのそれに、あたしは見とれる。
自分の人生で、ほんの数回ほどしか、お目にかかる事が無かったようなもの。
「デザートにしませんか。――えっと、実は、夕飯、作ってみたんです」
「え」
「と言っても、焼きそばなんですけど……この前の夕飯のお返しってコトで」
そう言われ、ようやく、部屋に漂うソースの香りに気がついた。
「キャンプとかで作るような感じなんですが……何せ、慣れていないもので……。まあ、でも、ハズレではないと思うんですが」
あたしは、まじまじと彼を見つめる。
「……あ、あの……白山さん?」
「え、あ、いえ……。ありがとうございます。……うれしい、です……」
素直に口から出た言葉に、自分でも驚く。
高根さんは、目を見開くと、照れたように笑った。
本当は予定が入っていたようだが、別の人に代わってもらえたらしい。
そこまでしてもらうのは、申し訳無い気もするけれど、ありがたいので素直に甘えておく。
終業時間になり、それぞれが部屋を後にする中、チラリと振り返れば、朝日さんは、まだパソコンとにらみ合っていた。
「――……お先に……失礼します……」
ポツリと、震える声で言うと、彼は我に返ったように顔を上げ、あたしを見た。
「……あ、ああ。……お疲れ」
少しだけ眉を寄せながら、そう返すと、再び、パソコンに視線を向ける。
それが――当たり前のはずなのに……胸が痛い。
お互いにぎこちない空気。
でも――それを、疑問に思われない。
それが、あたし達の関係なんだ。
部屋に帰ると、高根さんが先に帰っていて、あたしを迎えてくれた。
「お帰りなさい」
「た……ただいま……」
まだ、慣れない。
けれど、彼はニッコリと微笑む。
「お疲れ様。今日は、ご連絡ありがとうございました」
「あ、ハイ。……急なお願いですみません。でも、助かります。今月末までに決定しないとなので」
「全然構いませんよ。――あ、でも、家では、仕事の話は無しにしましょうね」
あたしは、少しだけバツが悪くなる。
――……本当は、時間外だろうが、話をしたかったんだけど。
まあ、彼にとって、それは仕事のうちだから、無償奉仕になってしまう。
「白山さん、仕事熱心なのも良いですが……少しは力、抜きませんか?」
「え」
高根さんは、あたしの目の前に来ると、そっと抱き締める。
「え、あの、た……高根、さん……?」
「ホラ、身体中、力が入ってます」
彼は、そう言いながら、あたしの背中をそっと撫でる。
たぶん、子供をあやすような感覚だったんだろうけれど。
「――……んぁ……っ……」
朝日さんに隅々まで開発されてしまった身体には――刺激が強すぎて。
思わず出てしまった声に、高根さんは、慌てて距離を取った。
「あ、あのっ、僕、そんなつもりじゃ……」
「いえ、ち、違うんです……その……」
お互いに真っ赤になってうつむいてしまう。
まるで、学生のよう。
あたしは、口ごもりながらも、彼に言った。
「……すみません……。あたし、その……び、敏感、らしくて……」
まさか、事実を告げる訳にもいかず、そうごまかす。
「え、あっ……すみません……!……以後、気をつけます……」
彼は、反省しきりに言うので、申し訳無くなるけれど。
でも、また、同じ事をされた時――あたしが、どんな反応をしてしまうのかわからない以上、やめてもらった方が助かるのだ。
高根さんは、首まで赤くなりながら、ぎこちなくソファに座った。
テーブルには、どこかのお菓子屋の箱。
「あ、あの、趣旨がずれちゃいましたけど……おみやげ、です」
「え」
「今日、打ち合わせのトコ、近くに有名なお菓子屋さんがあって……お好きか、わからなかったんですが、良かったら……」
そう言いながら、箱を開けて、あたしに見せる。
中には、小さいけれど、意匠を凝らしたデザインのタルトが四個。
「僕も、結構、お菓子とか好きなんで……よく買って来るんですよ」
「――……そうなんですね……。……すごい、かわいい……」
食べるのが、もったいなくなるくらいのそれに、あたしは見とれる。
自分の人生で、ほんの数回ほどしか、お目にかかる事が無かったようなもの。
「デザートにしませんか。――えっと、実は、夕飯、作ってみたんです」
「え」
「と言っても、焼きそばなんですけど……この前の夕飯のお返しってコトで」
そう言われ、ようやく、部屋に漂うソースの香りに気がついた。
「キャンプとかで作るような感じなんですが……何せ、慣れていないもので……。まあ、でも、ハズレではないと思うんですが」
あたしは、まじまじと彼を見つめる。
「……あ、あの……白山さん?」
「え、あ、いえ……。ありがとうございます。……うれしい、です……」
素直に口から出た言葉に、自分でも驚く。
高根さんは、目を見開くと、照れたように笑った。