EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
 二人で焼きそばを食べ終え、デザートのタルトを堪能する。
 もちろん、高根さんの淹れたコーヒーもセットだ。
 ――何て、贅沢。

「ごちそうさまでした。……美味しかったです」

 あたしは、そう言って、空になった食器を二人分持つ。
「いえ、お口に合って良かったです」
 お礼に洗い物をすると申し出ていたので、そのまま、始めた。
 高根さんは、あたしの意思をできる限り尊重してくれる。
 ――それは、不思議と居心地の良いもので。
 今まで、振り回されてばかりだったから……余計に、うれしかった。

 少しずつ、少しずつ――こんな風に安らげる時間が増えれば……朝日さんの事も、思い出になるんだろうか――……。

 簡単に片付け終えると、ハンカチで手を拭く。
 すると、それを見計らったように、高根さんが声をかけた。

「白山さん」

「ハイ」

 あたしが振り返ると、彼は、真後ろで気まずそうに――でも、こちらをジッと見つめていた。
「――あの……不躾で申し訳無いんですが……仕事、大丈夫ですか?」
「え?」
「……いえ、あの……黒川さん、上司、なんですよね。……その……トラブルとか……」
 そう尋ねられ、一瞬、考える。
 ――ああ、パワハラとか、心配してくれているのか。
 あたしは、自嘲気味に口元を上げ、首を振った。
「――……大丈夫です。……公私混同はしない人なんで……」
 ――まあ、仕事が終わったら、どうなるかはわからないけれど。
 昨日、抱き締められた事を思い出し、視線は下がってしまう。
「……そう、ですか」
 何だか、残念そうに聞こえてしまい、あたしは高根さんを見上げた。
「……あの、何か……」
「いえ、もし、居づらいようなら……ウチの会社に来てもらえたらな、って……」
「え」
 あまりに唐突な提案に、あたしは、目を丸くする。
 だが、彼は、畳みかけるように続けた。
「いえ、ホラ、ウチの会社、女性社員がいないんで……前も言ったように、女性の視点が必要な時、すごくやりづらくて。望さんも、よくボヤいていたんです」
 あたしは、完全に固まってしまう。

 ――それは、転職を勧めているという事……?

 まるで考えた事は無かった。

 それが顔に出ていたんだろう。
 高根さんは、気まずそうに笑った。
「そんなに深刻に考えないでください。――もしもの話、ですから」
「……いえ、ありがとうございます。……そんな風に言っていただけるなんて、思ってなかったので……」
 あたしは、そう言って、頭を下げた。
 高根さんは、慌ててそれを止める。
「あ、あの、でも……一応、考えてもらえませんか」
 それには、軽く首を振った。
「――すみません。……たぶん、お役に立てそうもないので……」
「あ、そ、そう……ですか……」
 今まで、総務部の仕事しかしてこなかったあたしが、いきなり、ベンチャー企業に転職できるはずもない。
 求められている事ができるとは――到底、思えなかった。

 ――必要とされるのはうれしいけれど。
 ……期待に応えられないのは、つらいから……。
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