EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「――何だ」
 あたしが声をかけるよりも先に、黒川部長は、視線を向けてぶっきらぼうに言った。
 土曜日の事を引きずっているようで、思わずこちらも眉を寄せる。
「……改善書が差し戻されたんですが。課長から、部長に直接確認してくれと言われました」
 すると、部長はにらむようにあたしを見やる。
 あたしも、負けじとにらみ返した。
「――理由はわからないのか」
「申し訳ありませんが」
 その返事が気に食わないのか、更に部長は眉を寄せた。
「――三年前の改善書の焼き直しなど、誰がしろと言った」
「……っ……」
 部長は、言葉に詰まったあたしから、視線をパソコンに移した。
「世情は日々動いている。根本的な改善点がわからないのなら、聞きに来い。何のための部長だと思っている」
 言っている事は、わかる。
 でも、前の部長が丸投げしたものを、何であたしの責任にされるのよ。
 不本意だと表情に出ていたのか、部長は、大きくため息をついた。
「あのな、前の豊原(とよはら)部長は、担当者のお前に自覚を促すために渡したんだ。サボるためではない」
「――え」
 あたしは、まじまじと部長を見た。
 だが、視線が合う事は無い。
「白山は、高卒で入社だろう。もう、十年目だ。――役職を考えてもおかしくないと思うんだが。そのためにも、そういった書類には慣れてくれ」
 その言葉に、苦笑いが浮かんでしまう。
 何だ、それは。
 年功序列とでも言いたいの。
「――あたしよりも仕事ができる人なんて、山ほどいますが」
「……何だ、それは」
 そっくりそのまま、心の中で毒づいた言葉を返され、あたしは視線をそらした。
「とにかく、書き直します。いつまでに提出すれば、よろしいでしょうか」
 部長は、あたしを見やると、ため息をつく。
「――水曜日。社長に提出するのが、今週末だからな」
「承知しました」
 どうやら、あきらめてくれたようで、あたしは、頭を下げると席に戻った。
 そして、パソコンのファイルを開こうとすると、メールが来ていて、先にそれを開く。

 ――お世話になっております。(株)ライフプレジャー、企画の高根(たかね)です。
 今夏に予定されている御社の福利厚生イベントについての打ち合わせを、以下の日時で行いたいと考えておりますが、ご都合はいかがでしょうか。

 あたしは、文面を見ながら、デスクにある卓上のカレンダーを見やる。
 改善書は水曜、人間ドックの日程組みは、まだ日にちがある。
 木曜か金曜日なら、と、返信すると、すぐに返ってくる。
 早目が良いというので、木曜の午前中に予定し、カレンダーと、部内のパソコンのスケジュール一覧にメモした。
 そして、今度こそファイルを開き、改善書のデータを出すと、あたしは、頭を悩ませながら一から書き直したのだった。
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