EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「――じゃあ、改めて、よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ……」
高根さんと、家族ごっこというものを始めるにあたり、彼は契約書を作ると言い出した。
「口約束だと、言った言わないになっちゃうんで」
「で、でも」
「必要以上に、お互いを縛りたくないんですよ」
「――高根さん」
そう言われ、あたしは、うなづいた。
彼の意図がどこにあるのか、わからないけれど――少なくとも、今までのような、なし崩しのような同棲ではない。
――お互いの、心の傷を埋めるだけのもの。
――それは、きっと、他人から見れば、不自然な事だろうけれど――今のあたしには、必要な気がした。
「じゃあ、仕事に関しては、今まで通りで。家事は――僕は、知っての通りなので、美里さんの要望に従います」
「え、あ、あたしがやりますよ」
「でも」
「――……やりたいんです。……たぶん、自分の母親が、家の事をしていた記憶が無いんで、無意識に理想像にしているんだと思いますけど……」
すると、高根さんは、少し考え、あたしに言った。
「でも、仕事している以上、できない事だってありますし、無理はしてほしくないので。それに、僕、平日休みの時とか多いですし」
「――……でも……」
そう言われても、あたしの中には、今までの経験で刷り込まれたように、すべてをしてあげるという意識が残っているのだ。
「なら、始めてから、すり合わせていきましょう」
「わかりました」
そして、次々と、企画を練るように高根さんは契約書を作っていった。
「――じゃあ、こんなところにしましょうか」
そう言って、高根さんは立ち上がると、プリントアウトした紙をあたしに手渡した。
三枚ほどのそれに、苦笑いが浮かぶ。
「……えっと……引いてます?」
彼は、眉を寄せてあたしに尋ねたので、慌てて首を振った。
「いえっ!……すごく、細かいなぁって……」
「まあ、性分ですし。……こういう事だけは、細かい自覚はあります」
高根さんは、ソファに座っていたあたしの隣に腰を下ろすと、気がついたように言った。
「あ、そうだ。……せっかくですし、タメ口にしませんか?」
「え」
「――お互い、仕事の延長みたいで、気が休まらないし……ね?」
「で、でも……」
「――ダメ?……美里ちゃん」
「……っ……⁉」
あたしは、驚いて目を見開き、固まってしまった。
それを見やると、高根さんは、楽しそうに笑う。
「せっかくだよ。……経験できなかったコト、するんでしょ?」
「……う……うん……」
そう返せば、ニッコリと笑顔を向けられる。
彼は、本当に楽しそうで――あたしも、少しだけ、満たされた気分になった。
「あ、僕も名前で呼んでね」
「え、あ」
――名前……名前……って……。
あたしは、記憶を掘り起こすが、すぐにギブアップした。
ダメ。初めて会った時から、ずっと苗字の人、覚えてる訳ない。
すると、高根さんは、気を悪くした風も無く言った。
「充。――どう呼んでも良いよ?」
「……じ、じゃあ……充、さん?」
すると、彼は、あからさまに不服そうな顔を見せる。
その表情は、甘えているようで――奥深くが刺激されてしまう。
――ああ、もう、チョロいな、あたしも。
「……み、充……くん……?」
ニッコリと返され、あたしは、ホッとする。
改めて言うなんて――何だか、気恥ずかしい。
「あ、そうだ。美里ちゃん、いくつ?僕の方が年下かな?」
「そう言えば……あたし、二十八です」
「え」
すると、高根さん――充くんは、目を丸くする。
「え、うそ。僕の方が上じゃん。今年で三十歳だよ」
「え」
お互いに、驚き合う。
「――……てっきり……新卒かと思ってた……」
「僕も、年上だと思ってた」
そして、笑い合う。
そんな空気が、何だか心地良かった。
「こ、こちらこそ……」
高根さんと、家族ごっこというものを始めるにあたり、彼は契約書を作ると言い出した。
「口約束だと、言った言わないになっちゃうんで」
「で、でも」
「必要以上に、お互いを縛りたくないんですよ」
「――高根さん」
そう言われ、あたしは、うなづいた。
彼の意図がどこにあるのか、わからないけれど――少なくとも、今までのような、なし崩しのような同棲ではない。
――お互いの、心の傷を埋めるだけのもの。
――それは、きっと、他人から見れば、不自然な事だろうけれど――今のあたしには、必要な気がした。
「じゃあ、仕事に関しては、今まで通りで。家事は――僕は、知っての通りなので、美里さんの要望に従います」
「え、あ、あたしがやりますよ」
「でも」
「――……やりたいんです。……たぶん、自分の母親が、家の事をしていた記憶が無いんで、無意識に理想像にしているんだと思いますけど……」
すると、高根さんは、少し考え、あたしに言った。
「でも、仕事している以上、できない事だってありますし、無理はしてほしくないので。それに、僕、平日休みの時とか多いですし」
「――……でも……」
そう言われても、あたしの中には、今までの経験で刷り込まれたように、すべてをしてあげるという意識が残っているのだ。
「なら、始めてから、すり合わせていきましょう」
「わかりました」
そして、次々と、企画を練るように高根さんは契約書を作っていった。
「――じゃあ、こんなところにしましょうか」
そう言って、高根さんは立ち上がると、プリントアウトした紙をあたしに手渡した。
三枚ほどのそれに、苦笑いが浮かぶ。
「……えっと……引いてます?」
彼は、眉を寄せてあたしに尋ねたので、慌てて首を振った。
「いえっ!……すごく、細かいなぁって……」
「まあ、性分ですし。……こういう事だけは、細かい自覚はあります」
高根さんは、ソファに座っていたあたしの隣に腰を下ろすと、気がついたように言った。
「あ、そうだ。……せっかくですし、タメ口にしませんか?」
「え」
「――お互い、仕事の延長みたいで、気が休まらないし……ね?」
「で、でも……」
「――ダメ?……美里ちゃん」
「……っ……⁉」
あたしは、驚いて目を見開き、固まってしまった。
それを見やると、高根さんは、楽しそうに笑う。
「せっかくだよ。……経験できなかったコト、するんでしょ?」
「……う……うん……」
そう返せば、ニッコリと笑顔を向けられる。
彼は、本当に楽しそうで――あたしも、少しだけ、満たされた気分になった。
「あ、僕も名前で呼んでね」
「え、あ」
――名前……名前……って……。
あたしは、記憶を掘り起こすが、すぐにギブアップした。
ダメ。初めて会った時から、ずっと苗字の人、覚えてる訳ない。
すると、高根さんは、気を悪くした風も無く言った。
「充。――どう呼んでも良いよ?」
「……じ、じゃあ……充、さん?」
すると、彼は、あからさまに不服そうな顔を見せる。
その表情は、甘えているようで――奥深くが刺激されてしまう。
――ああ、もう、チョロいな、あたしも。
「……み、充……くん……?」
ニッコリと返され、あたしは、ホッとする。
改めて言うなんて――何だか、気恥ずかしい。
「あ、そうだ。美里ちゃん、いくつ?僕の方が年下かな?」
「そう言えば……あたし、二十八です」
「え」
すると、高根さん――充くんは、目を丸くする。
「え、うそ。僕の方が上じゃん。今年で三十歳だよ」
「え」
お互いに、驚き合う。
「――……てっきり……新卒かと思ってた……」
「僕も、年上だと思ってた」
そして、笑い合う。
そんな空気が、何だか心地良かった。