EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
平均的な頭を悩ませながら改善書を書き終え、プリントアウトすれば、もう一日が終了していた。
――ああ、何やってんだろ、あたし……。
デスクの上には、書きなぐったメモが散乱している。
あたしは、それをかき集めながら、ため息をついた。
いつもなら、ほどほどにタスクを終えて、ヘルプマーク――総務部内では、仕事が溜まっている人間が、作業の振り分けを依頼するマークだ――がついていた人間を手伝っていたのに。
前回からのイベント企画と、その参加率や社員の感想などを調べていたら、それだけで半日使う羽目になってしまい、更に他社のホームページの福利厚生の項目をチェックしたりしていたら、キリが無くなってしまった。
ウチは、昔からのイベントしか企画していないので、目新しさが無いのだ。
それが、特に若いコたちの参加率が良くない理由の一つだろう。
そんな風に考えて書いていると、自然と、他に何か無いかという思考になってしまい、あたしはかぶりを振った。
――ダメだ。
必要以上に突っ込んでしまうと、割に合わない。
ただでさえ、他の子たちがやりたがらない仕事が回されているっていうのに。
あたしは、ひとまず改善書の誤字等をチェックし、クリアファイルに入れて机の引き出しに片付けた。
後は、明日考えよう。
顔を上げれば、もう、既に終業のベルは鳴っていたようで、社員のほとんどは帰宅の途についていた。
残っているのは、先日の本部会議の議事録のまとめをしている、一課の課長くらい。
あたしも、早いところ不動産屋を回ろうと思い、立ち上がると、デスクを片付ける。
「白山」
すると、どこかへ出ていたのか、部屋に入って来た黒川部長が、あたしのところまでやってきた。
思わず後ずさってしまうが、それにお構いなしで、尋ねる。
「――今日も、また、ネットカフェか」
あたしは、眉を寄せて視線をそらす。
「……友人の家ですが。……新井さんには、申し訳ありませんが、お断りの電話を入れますので、お気になさらず」
そう言うと、バッグを持って部長の脇を通り過ぎる。
「白山!」
だが、一課の課長――川田課長にチラリと見られ、部長は気まずそうに口を閉じた。
どうやら、着任早々なので、課長たちとは波風を立てたくないようだ。
あたしは、そのまま部屋を出ると、エレベーターで一階まで下りる。
そして、ロッカールームで荷物を持つと、会社を後にした。
「お帰り、美里。――部屋探し、芳しくなさそうね」
「――……ただいま」
あたしは、舞子の部屋に上がると、持っていた荷物をドサリと置いた。
一泊の荷物とはいえ、まあまあ、かさばって重かったのは確か。
「もうさあ、条件、どこか妥協しないとダメだね」
「安全面は優先しなさいよ」
「わかってるって。でも、もう駅近は無理そうだから、バスの路線で考えようかと思って」
「あー、アンタ、車乗らないもんねぇ」
「だって、維持費とか大変じゃない」
今まで、通勤は電車で二駅だった。
車の免許はあるけれど、車を買う余裕も無かったし、いろいろ考えれば電車の方が楽だったから、選択肢に浮かばなかった。
会社からは、定期代が交通費として支給されるから、負担はあんまり無いし。
舞子は、テーブルに夕飯の焼きそばを並べながら、あたしを見やった。
「でもさ、どうにも見つからなかったら、ここ、引き継ぐ?」
「え?」
「――アキがさ、同棲なら、自分の部屋でもできるから、アンタに部屋譲ったらどうかって言ってるんだよね」
「――え」
あたしは、一瞬、飛びつきそうになったが、首を振る。
申し訳ないが、ここからでは、通勤時間がかなりかかってしまう。
「ありがと。でもさ、最終手段にしておくわ。――秋成さんには、気を遣わせちゃってごめんなさいって言っておいて」
言いながら、あたしは支度を終えて座ると、手を合わせて舞子特製の焼きそばに箸をつけた。
――ああ、何やってんだろ、あたし……。
デスクの上には、書きなぐったメモが散乱している。
あたしは、それをかき集めながら、ため息をついた。
いつもなら、ほどほどにタスクを終えて、ヘルプマーク――総務部内では、仕事が溜まっている人間が、作業の振り分けを依頼するマークだ――がついていた人間を手伝っていたのに。
前回からのイベント企画と、その参加率や社員の感想などを調べていたら、それだけで半日使う羽目になってしまい、更に他社のホームページの福利厚生の項目をチェックしたりしていたら、キリが無くなってしまった。
ウチは、昔からのイベントしか企画していないので、目新しさが無いのだ。
それが、特に若いコたちの参加率が良くない理由の一つだろう。
そんな風に考えて書いていると、自然と、他に何か無いかという思考になってしまい、あたしはかぶりを振った。
――ダメだ。
必要以上に突っ込んでしまうと、割に合わない。
ただでさえ、他の子たちがやりたがらない仕事が回されているっていうのに。
あたしは、ひとまず改善書の誤字等をチェックし、クリアファイルに入れて机の引き出しに片付けた。
後は、明日考えよう。
顔を上げれば、もう、既に終業のベルは鳴っていたようで、社員のほとんどは帰宅の途についていた。
残っているのは、先日の本部会議の議事録のまとめをしている、一課の課長くらい。
あたしも、早いところ不動産屋を回ろうと思い、立ち上がると、デスクを片付ける。
「白山」
すると、どこかへ出ていたのか、部屋に入って来た黒川部長が、あたしのところまでやってきた。
思わず後ずさってしまうが、それにお構いなしで、尋ねる。
「――今日も、また、ネットカフェか」
あたしは、眉を寄せて視線をそらす。
「……友人の家ですが。……新井さんには、申し訳ありませんが、お断りの電話を入れますので、お気になさらず」
そう言うと、バッグを持って部長の脇を通り過ぎる。
「白山!」
だが、一課の課長――川田課長にチラリと見られ、部長は気まずそうに口を閉じた。
どうやら、着任早々なので、課長たちとは波風を立てたくないようだ。
あたしは、そのまま部屋を出ると、エレベーターで一階まで下りる。
そして、ロッカールームで荷物を持つと、会社を後にした。
「お帰り、美里。――部屋探し、芳しくなさそうね」
「――……ただいま」
あたしは、舞子の部屋に上がると、持っていた荷物をドサリと置いた。
一泊の荷物とはいえ、まあまあ、かさばって重かったのは確か。
「もうさあ、条件、どこか妥協しないとダメだね」
「安全面は優先しなさいよ」
「わかってるって。でも、もう駅近は無理そうだから、バスの路線で考えようかと思って」
「あー、アンタ、車乗らないもんねぇ」
「だって、維持費とか大変じゃない」
今まで、通勤は電車で二駅だった。
車の免許はあるけれど、車を買う余裕も無かったし、いろいろ考えれば電車の方が楽だったから、選択肢に浮かばなかった。
会社からは、定期代が交通費として支給されるから、負担はあんまり無いし。
舞子は、テーブルに夕飯の焼きそばを並べながら、あたしを見やった。
「でもさ、どうにも見つからなかったら、ここ、引き継ぐ?」
「え?」
「――アキがさ、同棲なら、自分の部屋でもできるから、アンタに部屋譲ったらどうかって言ってるんだよね」
「――え」
あたしは、一瞬、飛びつきそうになったが、首を振る。
申し訳ないが、ここからでは、通勤時間がかなりかかってしまう。
「ありがと。でもさ、最終手段にしておくわ。――秋成さんには、気を遣わせちゃってごめんなさいって言っておいて」
言いながら、あたしは支度を終えて座ると、手を合わせて舞子特製の焼きそばに箸をつけた。