EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
朝日さんは、水沢さんと二人、お互いににらみ合っているのか、しばらく黙ったままだった。
沈黙が、妙な緊張感を連れてくる。
あたしは、目の前の朝日さんの背中を、見つめるだけしかできなかった。
どのくらいの時間が過ぎたのか――ようやく、彼は口を開いた。
「水沢、朝も言ったが――お前のご両親には、連絡しているからな。明日にでも、こちらに来ると言われている」
あたしは、そう言った朝日さんを見上げる。
まさか、彼女の両親が出てくるとは思わなかった。
そんなあたしの思いに気がついたのか、彼は、苦笑いであたしを見下ろした。
「嫌な予感がしたから、アイツが現われてから、大阪支社の方に連絡を取ったんだ」
あたしは、最初、彼女が現われた時を思い出す。
あの時――朝日さんは、しばらく姿を見せなかった。
「同じ頃、向こうに、アイツの母親から連絡があったらしい。――娘が消えたが、こちらに来ていないかと」
「――え」
「何度も、逆恨みしないよう、説得していたが――オレと結婚するとしか言わなかったと。……そして、しびれを切らしたのか、迎えに行くと言って消えたんだそうだ」
あたしは、一瞬、水沢さんの精神状態が気になってしまった。
けれど、朝日さんを見やれば、かすかに首を振って返された。
――なら、すべて自覚した上で……こんな風に、彼を追い詰めているって事……?
朝日さんは、彼女から視線を逸らす事なく、言った。
「――……水沢。……どうして、今、現れたのかは……大体予想がついている。……あの元カレが、この前、出所したんだろう」
「あの男は関係ない‼」
そう言い張るけれど、彼女の声は震えている。
――それは、的外れではないという事だ。
「お前がこちらに来てからひと月近いが――その間、家に帰っていないよな。ご両親も何も言わないのは、そのせいか。――今は、ホテル住まいか」
「そんなのどうでも良いでしょ!」
「――逃げて来たんだろう。……あの男から」
「やめて!あんなヤツのコト、口にしないで‼アンタが、あたしと結婚すれば済む話よ‼」
否定したいのか、彼女は、畳みかけるように朝日さんに言う。
あたしは、それを、意識の外で聞いていた。
じゃあ……彼女は――自分の身を守るために……こっちに逃げてきて……?
――……その上、朝日さんを、利用しようと……?
「――美里、ここで待っていろ」
「え」
だが、振り返らず言う朝日さんは、そのまま、足を踏み出した。
「……朝日さん……?」
「――もう、終わらせてやるから」
朝日さんは、真っ直ぐ、水沢さんの元に進んで行く。
二人の距離は、彼の数歩で縮まる。
「――ま、待って……」
だが、彼女が視界に入った瞬間、あたしの背筋がざわつき、そう声を振り絞るが、朝日さんは止まらない。
何だか、雰囲気がおかしい。
それに気づかないはず無いのに。
「……あ、朝日さん、待ってっ……!」
周囲に社員は誰もいない。
あたしは、思わず、彼の名前を口にする。
けれど――もう、二人は対峙していて。
「――水沢、もう、あきらめてくれ。……責任逃れはしないが、お前の言う通りには、できない」
朝日さんは、きっぱりと、そう告げる。
すると、水沢さんは、怒りに震えた声で叫んだ。
「――そんなの、絶対に許さない‼」
彼女の、悲鳴のような叫び。
それが聞こえると同時に、あたしの身体は無意識に動き出した。
振り上げた彼女の手には――ナイフが握られていて。
「やめて――……‼朝日さんっ……‼」
彼は、微動だにしない。
――それは――もう、覚悟をしているという事で――……。
そして――
振り降ろされたナイフは――どうにか、間に合ってくれた。
「み……さと……?」
胸に穴が開いたように、痛みで息ができない。
――ああ、ホントに開いたのかな……。
「美里……っ……⁉」
誰かの悲鳴と、朝日さんの声。
ヒューヒューと、喘鳴のような呼吸は、どうやら、あたしのようだ。
かすんでいく視界に、ぼんやりと、彼の端正な顔が入ってきた。
その顔は、真っ青を通り越して、真っ白で。
「ウソだろ……っ……!……だめだ……死ぬな……美里……!……美里っ……‼」
何だか、ふわふわと、幸せな気分だ。
――……やっと、あなたの役に立てた気がする。
遠のいていく意識の中、あたしは、そんな事を、ふと、思った。
沈黙が、妙な緊張感を連れてくる。
あたしは、目の前の朝日さんの背中を、見つめるだけしかできなかった。
どのくらいの時間が過ぎたのか――ようやく、彼は口を開いた。
「水沢、朝も言ったが――お前のご両親には、連絡しているからな。明日にでも、こちらに来ると言われている」
あたしは、そう言った朝日さんを見上げる。
まさか、彼女の両親が出てくるとは思わなかった。
そんなあたしの思いに気がついたのか、彼は、苦笑いであたしを見下ろした。
「嫌な予感がしたから、アイツが現われてから、大阪支社の方に連絡を取ったんだ」
あたしは、最初、彼女が現われた時を思い出す。
あの時――朝日さんは、しばらく姿を見せなかった。
「同じ頃、向こうに、アイツの母親から連絡があったらしい。――娘が消えたが、こちらに来ていないかと」
「――え」
「何度も、逆恨みしないよう、説得していたが――オレと結婚するとしか言わなかったと。……そして、しびれを切らしたのか、迎えに行くと言って消えたんだそうだ」
あたしは、一瞬、水沢さんの精神状態が気になってしまった。
けれど、朝日さんを見やれば、かすかに首を振って返された。
――なら、すべて自覚した上で……こんな風に、彼を追い詰めているって事……?
朝日さんは、彼女から視線を逸らす事なく、言った。
「――……水沢。……どうして、今、現れたのかは……大体予想がついている。……あの元カレが、この前、出所したんだろう」
「あの男は関係ない‼」
そう言い張るけれど、彼女の声は震えている。
――それは、的外れではないという事だ。
「お前がこちらに来てからひと月近いが――その間、家に帰っていないよな。ご両親も何も言わないのは、そのせいか。――今は、ホテル住まいか」
「そんなのどうでも良いでしょ!」
「――逃げて来たんだろう。……あの男から」
「やめて!あんなヤツのコト、口にしないで‼アンタが、あたしと結婚すれば済む話よ‼」
否定したいのか、彼女は、畳みかけるように朝日さんに言う。
あたしは、それを、意識の外で聞いていた。
じゃあ……彼女は――自分の身を守るために……こっちに逃げてきて……?
――……その上、朝日さんを、利用しようと……?
「――美里、ここで待っていろ」
「え」
だが、振り返らず言う朝日さんは、そのまま、足を踏み出した。
「……朝日さん……?」
「――もう、終わらせてやるから」
朝日さんは、真っ直ぐ、水沢さんの元に進んで行く。
二人の距離は、彼の数歩で縮まる。
「――ま、待って……」
だが、彼女が視界に入った瞬間、あたしの背筋がざわつき、そう声を振り絞るが、朝日さんは止まらない。
何だか、雰囲気がおかしい。
それに気づかないはず無いのに。
「……あ、朝日さん、待ってっ……!」
周囲に社員は誰もいない。
あたしは、思わず、彼の名前を口にする。
けれど――もう、二人は対峙していて。
「――水沢、もう、あきらめてくれ。……責任逃れはしないが、お前の言う通りには、できない」
朝日さんは、きっぱりと、そう告げる。
すると、水沢さんは、怒りに震えた声で叫んだ。
「――そんなの、絶対に許さない‼」
彼女の、悲鳴のような叫び。
それが聞こえると同時に、あたしの身体は無意識に動き出した。
振り上げた彼女の手には――ナイフが握られていて。
「やめて――……‼朝日さんっ……‼」
彼は、微動だにしない。
――それは――もう、覚悟をしているという事で――……。
そして――
振り降ろされたナイフは――どうにか、間に合ってくれた。
「み……さと……?」
胸に穴が開いたように、痛みで息ができない。
――ああ、ホントに開いたのかな……。
「美里……っ……⁉」
誰かの悲鳴と、朝日さんの声。
ヒューヒューと、喘鳴のような呼吸は、どうやら、あたしのようだ。
かすんでいく視界に、ぼんやりと、彼の端正な顔が入ってきた。
その顔は、真っ青を通り越して、真っ白で。
「ウソだろ……っ……!……だめだ……死ぬな……美里……!……美里っ……‼」
何だか、ふわふわと、幸せな気分だ。
――……やっと、あなたの役に立てた気がする。
遠のいていく意識の中、あたしは、そんな事を、ふと、思った。