EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
 二人が病室を出て行くのを見送ると、朝日さんは、あたしの元に戻って来る。
 そして、深々と頭を下げた。
「――な……」
「申し訳無かった」
 ――何言って。
 そう言い返す前に、彼は続けた。
「……ちゃんと謝っていなかったよな……。……こんな風にさせてしまって――本当に、申し訳無い……。……舞子くんが怒るのも、当然だ……」
 あたしは、眉を寄せる。

 ……やめてよ。
 ――……責任なんて、感じないで。

 あたしが、自分で選んだ事なのに。

 そう言いたかったけれど、声は出ない。
 朝日さんは、苦しそうにあたしを見やる。

「……責任は必ず取る。……だが――それを負い目に思わないでくれ」
「……ぇ……?」
 かすれた声で、聞き返すと、彼はベッドの脇に来て、ヒザをついた。
 そして、視線を合わせる。
「――……お前が、命を懸けてまで守ってくれた――その気持ちに、応えたい。……それだけだ」
「……あ……さひ、さ……」

「――美里――……ありがとう……」

 ――その言葉に、涙は止まらなくなる。


 ――……あたしは、好きな人の役に立ったんだ。


 ……でも……もう、これで、おしまいにしよう。


 目覚めてから――朝日さんがあたしを見つめる視線に、今までとは違うものが入り混じっているのは、もう、気がついている。

 罪悪感。
 責任感。

 ――同情。

 ……以前のような、純粋な愛情だとは、もう、思えない。


 しばらく零れ落ちていた涙を、朝日さんは、手で拭うと、あたしの手を両手で握った。
 その、真剣な表情に、言葉を待つ。

「――……美里……。……退院したら……今度こそ……指輪、買いに行かないか……?」

「……え……?」

 彼は、そう言って、あたしを、のぞき込む。


「――……改めて――オレと、結婚、してくれ」


「朝日……さん……」

 あたしは、彼の目を見つめ返す。
 ――……そして、かすかにうなづいた。

 それを見た彼は、ホッとしたように微笑み、あたしの頬にキスをすると、今度こそコンビニへと出て行った。
 あたしは、それを見送ると、硬質な天井を見つめて、涙を流した。



 ――……ウソついて……ごめんなさい……。


 ――……あたしは――……



 もう、誰もいらない。
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