EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「――み……」
ドアを開けると、高根さんは代休だったようで、いつものように、コーヒーの香りが迎えてくれた。
彼は、キッチンからあたしを見やると、息をのむ。
そして、急いでやってくると、彼は、あたしをきつく抱き締めた。
「――……充くん」
「……良かったっ……!鈴原冷食さんから、みぃちゃんが入院したって聞いてっ……」
「……うん……ごめんね……」
「いつまでも帰って来なかったから……もしかしたら、黒川さんと何かあったのかって思って、みぃちゃんに電話したたんだけど……出なかったから……もう、終わりなのかと……」
高根さんの震える声に、あたしは、申し訳無くなる。
「でも、次の日に仕事がらみで電話したら、入院したって聞いて……」
あたしは、彼の背中に手を回した。
それに応えるように、抱き締める腕に、更に力が入る。
少しだけ痛く感じたのは――きっと、罪悪感からだ。
「お見舞い行きたかったけど……どこに入院してるとか、個人情報だからって言われて……ただ、黒川さんに、重傷だから、控えてくれって……」
「そっか……」
あんな状態で彼に連絡したところで、迷惑にしかならないだろうと思っていたから、結局何もしなかったけれど――朝日さんが、伝えていたのか。
「……みぃちゃん……一体、何があったの?」
「――……うん……まあ、ちょっと……刺されちゃって……」
「え‼??」
何て事ないように言うが、やっぱり、驚かれてしまった。
――まあ、普通に生きてて、刺されるなんて、まず無いものね。
高根さんは、勢いよくあたしを離すと、真っ青な顔で全身を見た。
「う、動いて大丈夫なの⁉」
「――うん。……一応、痛み止めももらってるけど、そんなに気にならないから」
「でも……あ、とりあえず、横になる⁉みぃちゃんの物は、そのままだし……」
慌てて部屋の奥に連れて行こうとする彼の手を、あたしは、そっと離した。
彼は、いぶかし気に振り返る。
「……みぃちゃん?」
「――……今まで、本当に、ありがとうございました。――……高根さん」
あたしは、そう言って、頭を深く下げた。
……胸の痛みは――傷のせいではない。
高根さんは、一瞬、言葉を失ったようだ。
そんな彼を見たくなくて――あたしは、顔を上げられなかった。
「――……終わりに、するんだね……」
彼の言葉に、そのまま、うなづいた。
もう、これ以上――朝日さんも、高根さんも、傷つけたくはない。
「――……そっか」
あたしが、ゆっくりと顔を上げると、目の前の彼は、悲しそうに微笑んでいた。
「……でも……楽しかったです。……かりそめだってわかっていても……楽しかった……」
「……うん。……僕もだよ――」
そう言って、あたしの頬を流れる涙を、彼は唇で拭う。
――そして、そのまま、軽く口づけた。
お互いに、涙を浮かべたまま視線を交わす。
――ほんの少しの間だけの”家族”。
それでも……うれしかった。
高根さんは、そっとあたしを離すと、無理矢理、微笑んでみせた。
「――……短い間だったけど……ありがとう……ございました……。……白山、さん……」
「――……ハイ」
傷のなめ合いは――もう、終わりだ。
あたしは、彼の部屋に置いていた荷物をスーツケースに入れると、深々と頭を下げた。
「お世話になりました……」
「――……じゃあ、また、仕事で」
「……ハイ……」
うなづいて、ドアを閉める。
そして、歩き出すと同時に、涙が再び零れた。
――……ごめんなさい……。
……もう……仕事で会う事も、無いの――……。
ドアを開けると、高根さんは代休だったようで、いつものように、コーヒーの香りが迎えてくれた。
彼は、キッチンからあたしを見やると、息をのむ。
そして、急いでやってくると、彼は、あたしをきつく抱き締めた。
「――……充くん」
「……良かったっ……!鈴原冷食さんから、みぃちゃんが入院したって聞いてっ……」
「……うん……ごめんね……」
「いつまでも帰って来なかったから……もしかしたら、黒川さんと何かあったのかって思って、みぃちゃんに電話したたんだけど……出なかったから……もう、終わりなのかと……」
高根さんの震える声に、あたしは、申し訳無くなる。
「でも、次の日に仕事がらみで電話したら、入院したって聞いて……」
あたしは、彼の背中に手を回した。
それに応えるように、抱き締める腕に、更に力が入る。
少しだけ痛く感じたのは――きっと、罪悪感からだ。
「お見舞い行きたかったけど……どこに入院してるとか、個人情報だからって言われて……ただ、黒川さんに、重傷だから、控えてくれって……」
「そっか……」
あんな状態で彼に連絡したところで、迷惑にしかならないだろうと思っていたから、結局何もしなかったけれど――朝日さんが、伝えていたのか。
「……みぃちゃん……一体、何があったの?」
「――……うん……まあ、ちょっと……刺されちゃって……」
「え‼??」
何て事ないように言うが、やっぱり、驚かれてしまった。
――まあ、普通に生きてて、刺されるなんて、まず無いものね。
高根さんは、勢いよくあたしを離すと、真っ青な顔で全身を見た。
「う、動いて大丈夫なの⁉」
「――うん。……一応、痛み止めももらってるけど、そんなに気にならないから」
「でも……あ、とりあえず、横になる⁉みぃちゃんの物は、そのままだし……」
慌てて部屋の奥に連れて行こうとする彼の手を、あたしは、そっと離した。
彼は、いぶかし気に振り返る。
「……みぃちゃん?」
「――……今まで、本当に、ありがとうございました。――……高根さん」
あたしは、そう言って、頭を深く下げた。
……胸の痛みは――傷のせいではない。
高根さんは、一瞬、言葉を失ったようだ。
そんな彼を見たくなくて――あたしは、顔を上げられなかった。
「――……終わりに、するんだね……」
彼の言葉に、そのまま、うなづいた。
もう、これ以上――朝日さんも、高根さんも、傷つけたくはない。
「――……そっか」
あたしが、ゆっくりと顔を上げると、目の前の彼は、悲しそうに微笑んでいた。
「……でも……楽しかったです。……かりそめだってわかっていても……楽しかった……」
「……うん。……僕もだよ――」
そう言って、あたしの頬を流れる涙を、彼は唇で拭う。
――そして、そのまま、軽く口づけた。
お互いに、涙を浮かべたまま視線を交わす。
――ほんの少しの間だけの”家族”。
それでも……うれしかった。
高根さんは、そっとあたしを離すと、無理矢理、微笑んでみせた。
「――……短い間だったけど……ありがとう……ございました……。……白山、さん……」
「――……ハイ」
傷のなめ合いは――もう、終わりだ。
あたしは、彼の部屋に置いていた荷物をスーツケースに入れると、深々と頭を下げた。
「お世話になりました……」
「――……じゃあ、また、仕事で」
「……ハイ……」
うなづいて、ドアを閉める。
そして、歩き出すと同時に、涙が再び零れた。
――……ごめんなさい……。
……もう……仕事で会う事も、無いの――……。