EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
翌日、早目に舞子の部屋を出てバスに乗る。
やっぱり、時間的に毎日はつらい。
昨日回った不動産の空室情報に、目ぼしいものは見つからず、思わず、新井さんの提案を断った事を後悔するところだった。
――でも、やっぱり、上司と同じマンションとか、無理だって!
いくら、条件が凄まじく良かろうが――落ち着いて生活できないのは、ごめんなのだから。
始業時間と同時に、あたしは、課長に昨日書き上げた改善書を渡そうとすると、にこやかに首を振られた。
「もう、黒川部長に直接渡した方が早いよ」
「で、でも、課長に目を通していただかないと……」
「白山さんがOKだと思うなら、ボクはそれで良いからさ」
全幅の信頼――な、訳がない。
あたしは、思わず、眉を寄せて、デスクの上の書類をまとめている課長を見下ろした。
「――承知しました。直接、部長にお渡しします」
「お願いね」
ニコニコとうなづかれ、あたしは、頭を下げると視線を逸らす。
これ以上、このオッサンの前にいたら、怒鳴り散らしそうだ。
部長の席を見やると、ちょうど、一課のお姉さま――と言わないと怒られる――あたしよりも五年上の、小坂主任がまとわりついていた。
就任時から、一番、彼女が部長にご執心のようで、終業後も、どうにか接点を持とうと必死になっていたようだ。
「部長、今週末のスケジュールは、空いてますかぁ?」
「埋まっている」
「ええぇ?じゃあ、今度、総務部で部長の歓迎会やりますから、どこか空けられません?」
部長は、眉を寄せると、彼女を見やり言った。
「必要ない」
「でも」
「――始業時間は、とうに過ぎていると思うのだが。――小坂主任」
わざと、役職を強調するように言うと、部長は主任をスルーしてパソコンで作業を始めた。
残された彼女は、ふてくされたような表情で踵を返す。
――あー……あれ、マズいかも……。
あたし以上に歴の長い主任には、部内の人間――特に女性社員は逆らえない。
部長がやりづらくならないと良いんだけど……。
そこまで考え、あたしは、眉を寄せた。
――まあ、別に、どうだっていいんだけどさ!
あたしは、主任が席に戻ったのを見計らって、部長の席に向かった。
「――おはようございます。改善書、書き直しましたので、ご確認お願いします」
すると、部長はあたしを見やると、口元を上げた。
――え。
その、思った以上に幼い表情に、一瞬、胸が鳴る。
――……何で、そんなカオで微笑うのよ。
「――わかった。目を通しておく」
「お願いします」
あたしは、動揺を悟られないように、すぐに頭を下げて、席に戻った。
やばい。何あれ。
――鳴り出した心臓は、その日から、無駄に張り切り出したのだった。
やっぱり、時間的に毎日はつらい。
昨日回った不動産の空室情報に、目ぼしいものは見つからず、思わず、新井さんの提案を断った事を後悔するところだった。
――でも、やっぱり、上司と同じマンションとか、無理だって!
いくら、条件が凄まじく良かろうが――落ち着いて生活できないのは、ごめんなのだから。
始業時間と同時に、あたしは、課長に昨日書き上げた改善書を渡そうとすると、にこやかに首を振られた。
「もう、黒川部長に直接渡した方が早いよ」
「で、でも、課長に目を通していただかないと……」
「白山さんがOKだと思うなら、ボクはそれで良いからさ」
全幅の信頼――な、訳がない。
あたしは、思わず、眉を寄せて、デスクの上の書類をまとめている課長を見下ろした。
「――承知しました。直接、部長にお渡しします」
「お願いね」
ニコニコとうなづかれ、あたしは、頭を下げると視線を逸らす。
これ以上、このオッサンの前にいたら、怒鳴り散らしそうだ。
部長の席を見やると、ちょうど、一課のお姉さま――と言わないと怒られる――あたしよりも五年上の、小坂主任がまとわりついていた。
就任時から、一番、彼女が部長にご執心のようで、終業後も、どうにか接点を持とうと必死になっていたようだ。
「部長、今週末のスケジュールは、空いてますかぁ?」
「埋まっている」
「ええぇ?じゃあ、今度、総務部で部長の歓迎会やりますから、どこか空けられません?」
部長は、眉を寄せると、彼女を見やり言った。
「必要ない」
「でも」
「――始業時間は、とうに過ぎていると思うのだが。――小坂主任」
わざと、役職を強調するように言うと、部長は主任をスルーしてパソコンで作業を始めた。
残された彼女は、ふてくされたような表情で踵を返す。
――あー……あれ、マズいかも……。
あたし以上に歴の長い主任には、部内の人間――特に女性社員は逆らえない。
部長がやりづらくならないと良いんだけど……。
そこまで考え、あたしは、眉を寄せた。
――まあ、別に、どうだっていいんだけどさ!
あたしは、主任が席に戻ったのを見計らって、部長の席に向かった。
「――おはようございます。改善書、書き直しましたので、ご確認お願いします」
すると、部長はあたしを見やると、口元を上げた。
――え。
その、思った以上に幼い表情に、一瞬、胸が鳴る。
――……何で、そんなカオで微笑うのよ。
「――わかった。目を通しておく」
「お願いします」
あたしは、動揺を悟られないように、すぐに頭を下げて、席に戻った。
やばい。何あれ。
――鳴り出した心臓は、その日から、無駄に張り切り出したのだった。