EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
「――罪悪感や責任感、同情……いろんなものが入り混じった視線。――……一生、そんなもの向けられるくらいなら、あたしは何もいらないの!」

 それだけ言うと、あたしは彼に背を向ける。
 でも、早く歩き出したいのに――足が動いてくれないのは、何でよ。
 その間に、腕が掴まれた。
「――離してよ!」
「……お前、何もわかってないな」
「……え?」
 不意打ちの言葉に、振り返ってしまう。
 すると、頬に手が触れ、顔を上げさせられた。

「……確かに……いろんな感情は、ずっと、あった」

「だったら……」

「――……だが、それ以上に、後ろ暗い感情があるのに、気づいてないだろ」

「……え?」

 ――……何……言って……?

 朝日さんは、口元を上げる。
「――こじらせてる自覚はあるからな」
「何を今さら」
 あたしが眉を寄せると、彼は苦笑いで続けた。

「……これで――お前の中にオレは、一生、生き続けられる。……もし、お前が離れようとしても……その傷が、思い出させるはずだ。オレを守ってくれた時の気持ちを」

 そう言って、あたしの胸の真ん中を指さした。

 ――そこには……刺された時の傷が、数センチ程残っている。

 そして、それは――彼を守り切ったという証。
 あたしにとっては、誇りでもある、それ。

 ――……水沢さんと違うのは――……もう、一生、これ以上、傷は小さくならないという事だ。

「――そう思ったら……うれしくてな」
「……な……」
「――でも、そんな事、お前に言えるはずも無いだろう。バレたくなくて、必死だったんだぞ」
 見上げた彼の表情は――確かに、うれしそうで……。
 そして、あたしの手を取る。
「上手く隠せていたと思ったんだが――それで、お前が離れていくというのなら、いっそ、全部バラしてやろうか」
「ま、まだ、何かあるの⁉」
 あたしは、思わずギョッとして、朝日さんを見上げた。
「そもそも、オレが、お前を水沢の代わりにしたと言うが――前提が違う」
「え?」

「――言っただろ?一目惚れだって」

 あたしは、瞬間、ポカンと口が開いてしまった。

 ――……そう、言えば……。

「お前の事情なんて、知る由も無い。……ただ、見つけた瞬間、目が離せなかった。――もう一度会えたら……絶対に、自分のものにしたい。そう、思っただけなんだよ」
 少々、バツが悪そうに、朝日さんは続けた。
「……まあ、一歩間違えれば、ストーカーと言われても仕方ないんだが……あの後、ここで、しばらくお前の事、探してたんだ」
「――はぁ⁉」
 あっけにとられたあたしは、もう、動く気も無かった。

 ――……何、それ。

「……バッカみたい……」

 眉を寄せた彼から視線を逸らす。


 ――……何で……信じきれなかったんだろう……。

 ――こんなに――あたしを想ってくれている人を……。
< 190 / 195 >

この作品をシェア

pagetop