EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー
 結局、連日ホテルに泊まり、翌朝、少々気まずい気持ちのまま、通常の時間に出勤した。

「……お……おはよう……ございます……」

「白山さん!」

 総務部に顔を出した瞬間、目ざとく小坂主任につかまり、病み上がりから疲労が溜まりそうだ。
「大丈夫だった⁉あの女、何てコトしてくれたのよ、まったく!仕事が溜まってしょうがなかったわ!」
 憤りながらも本音を隠さない彼女は、もう、一周回って気持ち良い。
 あたしは、苦笑いで頭を下げた。
「――ご迷惑をおかけしました」
「そんなの、いいのよ!その間、みんなで手分けして仕事してたけど……でも、やっぱり、あなたがいてくれた方が、早いわね」
「え」
 小坂主任は、そう言って、あっけらかんと笑った。
 代わる代わる、総務部の人間が声をかけてくる中、それぞれに頭を下げる。
 そして、やっと自分の席に着こうとすると、不意に気配を感じて、振り返った。

「おはよう、白山」

「……おはよう……ござい、ます……。……黒川部長……。……この度は、ご迷惑をおかけしました――」

 そう返し、頭を下げる。
 そして、机にバッグを置こうと背を向けるが、彼の視線が動かない事に気がつき、恐る恐る振り返った。
「……あの……何か……?……休職中の手続きなら、後で……」
 だが、彼は、スッとあたしの左手を取った。

「……え」


「――好きです。白山美里さん……オレと、付き合ってください」


 ――は⁉


 だが、放心状態のあたしよりも、周囲の方が更に驚いたようで。

 部屋中に、悲鳴のような叫び声が響き渡った。

 あたしは、我に返ると、朝日さんを見上げる。
 すると――ニヤリと返された。


 ――……こっ……この男、外堀から埋めるつもり⁉


「ちょっと、白山さん!返事、返事‼」
 テンションの上がった小坂主任にバシバシと肩を叩かれ、ようやく、自分が注目されている事に気がついた。

 ――……ああ、もうっ……!

 うなづいても、断っても、仕事がやりづらくなるじゃない!


 ――それなら……。


 あたしは、大きく息を吐くと、彼を見上げる。
 そして、頭を下げた。



「――……よ、よろしくお願いします……」



 チラリと見上げると、変わる事の無い端正な顔は、幸せそうに微笑んでいる。

「――ありがとう。よろしくな、美里(・・)

 そんな彼に、あたしは、ふてくされて視線を逸らす。
 ――でも、優しく頭を撫でられれば――胸は跳ね上がるんだ。

 ――……自分のチョロさに、嫌気が差すけれど――嫌な気はしない。


 ……いろいろと腑に落ちないけれど、これが、彼の全力なら――あたしも、全力で抵抗してやろう。

 まあ、これからの攻防戦を想像すると――かなり、あたしの()が悪そうだけれど。


 主導権は――絶対に、渡してやらないんだから。


 そんな決意が沸き上がり、無意識に口元は上がった。
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